アンドレの「デジタルつれづれ草」104段

“カラスと上手に付き合う方法?”


夕暮れ時、一斉に集まるカラスの群れ(佐鳴湖に注ぐ新川の河口付近にて)

カラスはヒトの生活に密着しているので、 知れば知るほどとても興味深い生き物で す。私のカラスにまつわる話も3回目に なってしまいました。

カラスは世界中どこでも見ることができ、 生息地に定住する留鳥である為、四季を通 じて一年中ヒトの周辺に居ることから、ヒ トとの接触は避けられません。しかも、野 鳥としては大きい方で色も黒一色(一部外 国では黒と白のツートーンもある)で、不 吉な感じがする為、どこでもたいてい悪玉 にされています。 有史以前より生息しているにもかかわら ず、ヒトの食材にされたり、ペットとして 飼われることもなく、カラスの骨が古墳か ら発見されたとか、壁画に描かれていたと いう話を聞いたことがないのは、余りにも ヒトに身近すぎたからでしょうか。もっと も、以前韓国では強精剤としてカラス料理 が流行したことがあったそうですが。

カラスがヒトに嫌われ続けても、ヒトのそ ばを離れようとしないのは何故でしょう か。第一の理由は彼らの賢さです。カラス は頭がいいと言われていますが、実際に脳 の大きさは体に比べてとても大きいので す。カラスの体重が400〜500グラム に対して脳は10グラム。ニワトリは体重 1.2キログラムに対して脳は3グラムで すから、如何にカラスの脳が大きいか分か ります。ヒトが考えたカラス対策のウラを 直ぐに察知して、なかなか引っかかってく れません。

第二の理由は餌にこだわらないことです。 カラスは好き嫌いがない動物で、何でも食 べる雑食性の鳥です。都会ならヒトの残 飯、田舎なら農作物、イナゴやバッタなど の小動物、海岸や河原の近くなら魚の死骸 など、時には他の鳥の雛をも食べてしまい ます。特に脂っぽいものを好んで食べま す。だから、どんな環境でも生きていける のです。

第三の理由はどこにでも巣作りができるこ とです。繁殖期を迎える3月ごろは巣作り に忙しくなります。自然素材の乏しい都会 では木の枝の代わりにベランダの針金のハ ンガーや動物の抜け毛、ヒモなど、使える ものは何でも利用します。巣作りの場所も 高い木の枝以外に、ビルの屋上の貯水槽の 裏や高圧線の鉄塔など、どこでも巣を作る ことが可能です。

絶滅の危機にさらされている野鳥や動物の 多くは、生息環境が一定しており、エサも 特定のものしか食べないからです。生息環 境が破壊された場合は、即「死」に直面し ます。それに比べて、カラスの環境の変化 に対する高い適応力は、他の野鳥や動物と 大きく異なります。 最近全国各地で人里に熊が出没して話題と なっていますが、山に木の実など食糧が足 りなくなってきているからです。野生動物 もヒト社会に依存しなければ生きていけな いほど、日本の自然環境が破壊されている ということでしょうか。

カラスがヒトに嫌われる最大の理由は生ゴ ミを食い散らかすことです。飽食に馴れ きった日本人の習性を見抜き、生ゴミには 栄養豊富なご馳走が沢山あることを彼らは ちゃんと知っています。しかも、生ゴミを 出す曜日まで知っているかのように、生ゴ ミの収集日には必ずやってきます。

カラスがヒトに嫌われるもう一つの大きな 理由に、都会などでヒトを襲うことがある ことです。しかし、これにはカラスにも事 情があってのことです。人間を襲うのは必 ず4〜5月の子育ての時期です。可愛い我 が子の居る巣に近ずく者は動物であろうと ヒトであろうとみんな敵なのです。近づい てきたものは威嚇して追い払おうとしま す。自分の子どもを虐待して死なせてし まったり、パチンコに夢中になって車中に 子どもを放置する人間よりは、ずっと子ど もに対する愛情が深いのです。

一般的に動物は色盲だと考えられています が、鳥類は色を識別できるどころか、ヒト よりも色覚が優れ、視力もいいのです。可 なり上空からでも地上のネズミなどを発見 することができます。地上に降りてからは 鼻先の小さな虫を見ることができます。彼 らは遠近両用の目を持っています。私など は最近は遠近両用メガネを掛けていても、 新聞の字が読みづらくなって、メガネを外 したり掛けたりとても忙しいのです。

「鳥目」といって、鳥類は一般的に夜は目 が利きません。しかしカラスはかなり暗く ても目が利くようです。「早起きは三文の 得」といいますが、カラスにとって早起き は三文どころか生活が掛かっています。朝 は未だ暗い5時前から三々五々時差出勤で 仕事に出かけます。どこの世界にもできの 悪いのは居るもので、数羽寝坊のカラスが 日が昇ってから出かけたりします。およそ カラスの行動半径は4〜5キロです。夕方 は申し合わせたように一斉に帰宅します。 秋から春の時期は群れを成して行動しま す。夕方何百というカラスが電線などに止 まっている様子は、まるでヒッチコックの 映画、「鳥」のようです。

群れる利点は眼が多くなると敵を見つける にもエサを見つけるにも発見の確率が高く なることです。また、繁殖期前に群れる合 理的なもう一つの理由は結婚相手を探すこ とです。多くの出会いから最良の伴侶を見 つける、集団見合いの場でもあるのです。 仲睦まじい夫婦のことを「オシドリ夫婦」 といいますが、カラスもオシドリに負けな いほどの仲睦まじさがあります。カラスは 殆んど一生を夫婦で行動します。ヒトは狭 い世界で馴れ合いで結婚して、すぐに離婚 するカップルが多くなっています。又熟年 離婚などと言っている人間社会は、カラス を見習わないといけません。

カラスは又聴覚が優れているようです。そ の証拠にヒトや動物の声真似をします。私 もイヌの鳴き声をしているカラスに出会っ たことがあります。頭上から「グワン、グ ワン」とイヌのような鳴き声がしました。 見上げたらカラスが鳴いていました。様々 な声をまねするということは聞く耳を持っ ているということです。カラス同士でも3 0種類以上の鳴き声でコミュニケーション をとっていると言われています。

また、カラスは貯食の習性があり、食べ終 わって余ったエサは100ヵ所以上の場所 に隠して、場所をきちんと覚えています。 しかも、日持ちがするもの、痛みやすいも のを区別して貯えているといいます。スー パーで買った食材を冷蔵庫に詰め込んで、 賞味期限が切れて腐らせてしまう主婦など は、カラスを見習う必要があります。

さて、そんな頭の良いしたたかなカラスの 被害にたまりかねた東京都の住民の声に、 東京都庁もカラス対策プロジェクトチーム を作ってまでカラス退治に頭を悩ませてい ます。カラス退治の専門家も、生ゴミの袋 を工夫したり、視覚、聴覚、嗅覚など、カ ラスの弱点を研究していろいろ対策を考え ているようですが、頭のいいカラスに、直ぐ に単なるおどしに過ぎない事を見破られて しまいます。

しかし、地球上には人間だけが生きている わけではありません。ヒトだけが気持ちよ く生きようとするのは勝手がよすぎると言 うものです。いくらカラス退治をしてもカ ラスが朱鷺のように絶滅危惧の鳥になるこ とはないでしょうが、もし、地球上からカ ラスが居なくなったら、その時はヒトも地 球上から居なくなった時でしょう。適度に カラスもヒトも共存できる生態系を考えな いといけない時期にきているのではないで しょうか。(2006・11・11)

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