アンドレの「デジタルつれづれ草」92段

“「七つの子」って、七歳?七羽?”

カラス
♪カラスなぜなくの カラスは山に 可愛い七つの 子があるからよ♪

昨年に続いてまたまたカラスの話で恐縮で ある。カラスは人間社会に一番身近な鳥な ので、話題としては好きである。ただし、 今回は童謡「七つの子」についての話であ る。 全身真っ黒でゴミあさりの名人として、専 ら嫌われ者のカラスだが、童謡「七つの 子」は、実に可愛らしく書かれている。大 人から子供まで、この歌を知らない人はい ない。知名度抜群の歌である。しかし、一 体この「七つ」とは、巣の中にいる生まれ たての七羽の雛鳥のことを歌っているの か、それとも七才のカラスのことだろう か。(以下は童謡を研究した人の話であ る)

この歌の作詞者である野口雨情が「七つの 子」を最初に雑誌に収めたのは、大正10 年(1921年)の「野口雨情第一童謡集 ・十五夜お月さん」の中のこと。その後、 すぐに児童雑誌「金の船」に載ってとても 有名になった。その際、押し絵画家の岡本 帰一が七羽のカラスを描いた。だからみん な「七つの子」は七羽のことだ、と何の疑 いもなく思っていたのだ。

しかし、何時の時代にもうるさ方はいるも ので、「七羽のカラスはおかしいだろう」 と、いう声が雑誌に寄せられた。実はカラ スは一度に7個も卵を産まないという。念 のためにカラスの研究に詳しい山階(やな しな)鳥類研究所に聞いてみた。「先ずは 日本のカラスは嘴が細いハシボソカラス と、反対にハシブトカラスに分けられる。 都会で見かけるゴミ荒らしがハシブトカラ スで、山に入っていくほどハシボソにな る。この歌は“山の古巣に行ってみてごら ん”と歌っているから、ハシボソカラスの ことを歌っているわけだ」。「カア!カア !」と鳴くのがハシブトカラス、「ガア! ガア!」と鳴くのがハシボソカラスであ る。

「カラスの卵は普通3個から5個である。 我々が調査し始めてから現在までのとこ ろ、7個を生んだ記録は残っていません。 まして、産んだ卵全部が孵化するのは稀な 事ですから」と、“七羽の子”説はあっさ り否定されてしまった。今はカラスの世界 もも少子化時代で昔はカラスも子沢山だっ たと言うこともないだろうから。となる と、“七才の子”説が有力視される。

“七つ”は年齢と決め付ける前に、まず、 カラスの平均寿命を調べてみた。山階鳥類 研究所は、20万羽のカラスに足環をつけ て調査しているという。「平均寿命という 統計は取っていませんが、今までの調査で 一番長く生きたもので、5年6ヶ月です。 カラスに限らず孵化しても厳しい自然の中 で生き抜くのは至難の業です。外敵なども いる訳だし。約1年後の繁殖期までその大 半は育たないのです」。となると「七才の子」説も 成り立たなくなってしまう。

カラスの世界で7才の子は、人間なら10 0歳以上だ。これではきんさん・ぎんさん のような長寿のカラスを題材に歌ったこと になってしまう。いくらなんでもありえな い。“可愛い目をしたいい子だよ”と歌っ ているのだから少なくとも幼少でなければ ならない。7羽のことでも7才のことでも ないとすると、この童謡の“七つ”とは、 何を意味しているのでしょうか。

七を使う単語、熟語に手がかりはないか。 道路や坂など幾重にも曲がっていることを “七曲り”とか、“九十九折”などと言 う。七回曲がっている訳ではない。沢山と かいくつもあることを意味している。「あ る程度の量」と言う意味合いである。そう なれば「七つの子」は幾羽かの雛鳥と言う 意味にも取れる。それと同時に、野口雨情 はこの「七つの子」を人間の七歳の子にダ ブらせて書いたとも伝えられている。

この「七つの子」には、実は七五三の風習 が隠されているのだ。昔は今のように医学 が発達していなかった。だから抵抗力のな い子供は死亡率が非常に高かった。厳しい 生存競争が繰り広げられる自然界のカラス と同じだったのだ。無事3歳まで生きられ た。5歳まで育った。7歳を無事迎えられ た。喜びとお礼参り、今後も元気に生きて いけるようにと、七五三の儀式を生み、育 んできたのだ。

7歳を迎えると、そろそろ抵抗力も付い て、特別な変化が起こらない限り無事育っ ていけるという、特別の意味があった。・ ・・・・・親にとって苦労の種は尽きない ものだ。「七つの子」になって、やっと胸 を撫で下ろす。昔も今も全く変わっていな いのではないだろうか。(2006・5・26)

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