アンドレの「デジタルつれづれ草」89段

“個人情報保護法”

あなたの情報は狙われている

「個人情報保護法」が昨年4月から全面施 行されてから1年が経過した。個人の名前 や住所、病歴など、企業や行政機関などが 入手した情報を目的外利用や本人の同意が ない第3者への提供を原則禁止、漏洩を防 ぐ措置が義務づけられた。特に近年のIT 時代になってから、大量の個人情報が簡単 に持ち運びが出来たり、漏れてしまう事態 が発生するに至っては、止むを得ない措置 である。しかし、相変わらず個人情報漏洩 問題の発生は後を絶たない。特に最近では ファイル交換ソフト「ウイニー」による情 報漏洩が頻繁に発生して社会問題になって いる。残念ながら個人情報を悪用して金儲 けをする悪い人間が多くなったのも事実で ある。

しかし、こうした個人情報保護対策が急 ピッチで進む中、個人情報の扱い方に戸惑 いを隠せない事態が様ざまなところで発生 して困っているケースが多く見られるよう になった。個人情報の解釈の仕方が必要以 上に拡大解釈され、「個人情報保護」と言 う文字に過剰反応され始めて、人間社会の 一番大切なコミュニケーションすら取れな くなってきているのが現状である。

学校では生徒の緊急連絡網が作れない、同 窓会名簿にも情報提供を断られるなどであ る。楽しかった思い出の写真と共に同窓生 の住所や名前、両親の氏名などを載せた卒 業アルバムもなくなってしまうのか。も し、同窓生に緊急事態が発生しても、連絡 するすべがなく対処すら出来なくなってし まう。学校の入学試験合格者名簿も廃止さ れた。医師などの国家試験合格者名簿も廃 止された。親戚や知人に「おめでとう」の 声も掛けられなくなった。そういえば長者 番付けの発表も廃止されてしまったが、こ ちらは仕方が無いかもしれない。

ある郵便配達員の話では、以前は仕事の途 中に道を尋ねられても教えてあげるのが当 たり前だったが、今では、「仕事上で知り えた情報は口外してはならない」と、上司 から厳しく口止めされているとの事であ る。職業上、退職してからも口外できない というのが個人情報保護法の趣旨である。 これからは、知人宅を尋ねて家が分からな くなっても、自分で探すしかない。

民間団体「あしなが育英会」の中学3年生 を対象にした奨学金制度が支給出来ない事 態に陥っているという。あしなが育英会は 交通事故や病気などで親を失った生徒に高 校進学の奨学金を無利子で貸与している民 間団体である。しかし、学校側でプライバ シーの問題で名簿を提供できないという連 絡が多いと言う。折角の奨学金制度が個人 情報保護法の影響で活用できないとなれば 本末転倒である。

昨年のJR福知山線の脱線事故で、家族か らの安否紹介に対し、被害者入院先の医療 機関が情報を拒否する事態があった。自分 の家族や親戚が無事かどうか一刻も早く知 りたいのは当然の心情である。人の生命や 財産の保護に必要な場合は、本人の同意が なくても情報提供できる、という法の例外 規定が設けられているのは知られていな い。

どこの自治会などでも東海地震発生などの 緊急事態に備えての住民の名簿作成が行わ れていると思う。最近は高齢化、核家族化 が進んで高齢者の家庭、一人暮らしの家庭 が多い。万一の場合に備えて、高齢者家庭 の息子さんや娘さんへの連絡方法を記入し ていただくことにしているが、本人から 「個人情報だから」、と断わられば自治会 の役員はそれ以上は無理にお願いできな い。しかし、昨年地元で火事で老夫婦が焼 死した事故が発生し、すぐには子供さんへ の連絡が出来なかった事態が現実に発生し ている。

例を挙げれば切りが無いが、何でも匿名と する動きは逆に「情報隠し」になる恐れも ある。将来は個人名、住所など、全て暗号 化され、「Aさん」「Bさん」と呼ばなく てはならなくなるかも知れない。人間同士 の暖かい触れ合いがどんどん失われている のだ。なんとも世知辛い恐ろしい世の中に なって来たものだ。

デジタルの世界は歴史も浅く、未知な分野 が多く、専門家の間でも対策が追いつかな いのが現状である。ましてや素人には目に 見えない世界だけに、対策の仕方がさっぱ り分からないというのが正直なところだろ う。今更技術の進歩は後戻りが出来ない。 早く安全な対策が望まれるところである。(2006.4.14)

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