アンドレの「デジタルつれづれ草」88段

“セイヨウタンポポは総苞片がイナバウ アーしている”

雑草の中でも最もポピュラーなタンポポの お話をしよう。タンポポには大きく分けて 2つのグループがある。1つは日本に元々 ある在来タンポポ。もう一つは明治以降に 外国からやってきたセイヨウタンポポと呼 ばれる外来タンポポである。在来のタンポ ポと外来のタンポポは簡単に見分けがつ く。在来タンポポは花の下の総苞片が反り 返らないのに対して、外来のタンポポは反 り返っている。今風に言うなら“イナバウ アー”しているのですぐに分かる。

在来のタンポポはカントウタンポポ、カン サイタンポポ、トウカイタンポポ、エゾタ ンポポなど、名前のとおり、それぞれの地 方を生育圏として、花の大きさや総苞片の 形、葉っぱの姿など、形状にも特徴が違 う。地球上には北半球の温帯や暖帯に約4 00種ほどあり、日本には22種ほどがあ る。タンポポの花は、実は1つの花ではな く、80から160の小さな花が集まっ て、丸い大きな一つの花に見せている。

面白いのはタンポポの名前の由来である。 日本名の「タンポポ」の由来は、頭花を鼓 に見立てて、「タン・ポン・ポン」と音を 真似たものだという。英語では「ダンデラ イオン(dandelion)」、タンポ ポの葉っぱがライオンの歯のようにギザギ ザだからだ。フランス語の「ピッサリン (Pissenlit)」は“寝台に寝小 便をする”という意味で、葉をゆでた湯が 利尿剤になることからこの名前が付いた。

さて、在来のタンポポは春しか咲かないの に対して、外来のタンポポは1年中いつで も花を咲かせることが出来る。何度でも花 を咲かせ、種子を作ることが出来るのであ る。在来のタンポポは花も小さく種子も数 が少ないのに対して、外来のタンポポは花 が大きく種子の数も多い。更に外来のタン ポポは普通の種子ではなく、クローン遺伝 子によって種子を作る能力を身につけてい る。受粉する相手がいなくても、一株あれ ばどんどん増えることが出来るのだ。

勢力分析の結果は、どれをとっても外来タ ンポポのほうが優勢である。一般的に外来 タンポポは都市部に多く、在来タンポポは 郊外や田園部に多い。いかにも外来タンポ ポが都市部を制圧し、追いやられた在来タ ンポポが郊外へ落ち延びているように見え るが、実はそうではない。在来タンポポを 郊外へ押しやってる要因は人間による環境 破壊が主なものだ。

種子の小さな外来タンポポは、他の植物と の生存競争には決して強くない。昔からあ る在来の植物ががしっかり生えていれば外 来の植物は太刀打ちできない。しかし、都 市部では元々あった自然がどんどん破壊さ れている。ライバルのいない空き地ができ て、外来タンポポは初めて生存の場所を確 保できたのである。そうなれば外来タンポ ポは強い。一個体あれば種子を生産し、在 来タンポポのいない土地に広がっていっ た。外来タンポポが広がっていると言うこ とは、人間によって破壊された面積がそれ だけ広がっていると言うことである。

ところが、最近になって、本来は在来タン ポポの勢力圏であるはずの場所で、外見か らは外来タンポポと判断される固体が増加 している。外来タンポポの花粉を在来タン ポポに受粉して、雑種を作ると2分の1が 外来タンポポの遺伝子になる。その雑種に 更に外来タンポポの花粉が受粉すれば4分 の3、こうして段々血を濃くしながら在来 タンポポの体を汚染していくのである。雑 種はクローンの種子を作って増殖しなが ら、一方では更に在来タンポポと交配して いく。外来タンポポは1個体だけでもク ローン種子で増えるのに、在来タンポポは 種子を作るにはどうしても他の個体と交配 しなければ出来ない。雑種化する可能性が 次第に高くなっていく。

こうして、外来タンポポは雑種化し、純潔 の在来タンポポを減少させていく。郊外の 外来タンポポが増えたように見えたのは、 雑種になって在来タンポポの遺伝子を上手 く取り入れたからである。「周りにいたは ずの仲間達は、知らぬ間にみんなエイリア ンに乗り移られていた」。在来タンポポは 今、そんなSF小説顔負けの恐怖の中にい るのである。(2006・3・29)

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