アンドレの「デジタルつれづれ草」83段

“主人在宅ストレス症候群”

表題の病名を初めて聞いた時、誰かが冗談 で名付けた病名だろうと思っていた。しか し、日本心身医学会で命名された正真正 銘の病名である。読んで字のごとく、「主 人が定年後、ずっと在宅するようになっ て、奥さんの体調が悪くなる病気」であ る。世の奥さんが不調を訴えるようになっ たのは、「タンスにゴン・・・・・」のコ マーシャルが流行った1986年頃。 「亭主元気で留守がいい」というフレーズ が流行した頃だ。

症状は身体的原因のみならず、心理的原因 も重なって起こる。発症の仕方も個人差があり様ざまだ。ある人は、うつ状態に、ま たある人は高血圧、喘息、十二指腸潰瘍、 果てはキッチンドリンカーになる人など 様ざまである。体の不調を訴える患者に、 診察時に体の症状だけではなく、心理的背 景も尋ねることにしている。家庭の事情を 何度か聞いているうちに、「夫が家にいる のが辛い」と洩らすケースが多いことが分 かった。・・・・と、診察する医師は言 う。

患者にこのようなケースが出るのは、どち らかと言うと昔どおりの人間関係が残って いる、妻は夫に従い、子供は親に逆らうべ きでない、と言う、亭主関白、男尊女卑の 封建的な古い道徳が生きている家庭の主婦 に多いようだ。家庭内だけは昔のままを守 ろうとするからこそ、無理や摩擦が生じ る。必然的に年配の主婦に多く、夫が停年 退職した時に顕在化するケースが最も多い そうだ。

それまでは、朝夫を会社に送り出せば、夕 方帰ってくるまでは割りと自由な時間を過 ごす事ができた。しかし主人が停年退職す ると、一日中顔を合わせていなければなら ない。しかも家事を手伝ってくれる訳でも なく、ゴロゴロテレビを見て、掃除の邪魔 で、家事を教えてもやろうとしない、その くせ一日三食はきっちり食べるから食事の 用意をしなければならない。何もしないく せに奥さんのやることに一々けちをつけ る。

奥さんがどこかへ気晴らしに出かけたくて も「どこへ行くの」と、いちいち聞いてく る。挙句に一緒について来たりする。折角 子育てが終って自由になるかと思えば、 もっと手のかかる子供を預かったようなも のである。これでは奥さんのストレスが溜 まるのも無理はない。

その反対で、夫が家に帰るのを拒む「帰宅 拒否症候群」と言うのもある。奥さんの態 度が冷たい、年頃の子供とどうやってコ ミュニケーションをとったらいいのか分か らない、父親としての威厳がとれない、な ど、家庭での居心地が悪い為、毎晩寄り道 して遅く帰ったり、挙句の果てにカプセル ホテルに泊まって家に帰らない、と言う例 もあるらしい。

主人在宅ストレス症候群にしろ、帰宅拒否 症候群にしろ、お互いのコミュニケーショ ンを十分に取る事が大切である。お互いに 言いたいことを言い合えること、お互いの 生活のスペースを認めて譲り合うこと、家 事を分担して協力し合うこと、お互いに感 謝の気持ちを忘れないこと、お互いの行動 の自由を認め干渉しない事。・・・・・な どである。

アンドレメイトの皆さんのご家庭にはない とは思いますが、熟年離婚などと言う言葉 も流行している。30年以上一緒に暮らし ていても未だに完全には理解しがたい不思 議な関係である。夫婦は元をただせば所詮 赤の他人。親しき中にも礼儀あり、夫婦と 言えどもそれなりの礼儀をわきまえること も時には必要である。相手を余り束縛しな い事、お互いの自由を認め合うことが大切 です。お金もない、体力もない。ここまで きたら、残りの人生を夫婦二人で仲良く楽 しんだ方が、絶対お徳だと思いますがね。

振り返って我が家は全く、いや、多分心配 なさそうである。第一亭主関白の傾向は全 然ありません。一日中家に一緒にいること はほとんどありません。お互いの行動の自 由を認め合い干渉しない主義である。一応 家事も分担している。「食事の支度、洗濯 はかみさんの仕事、風呂の掃除とお湯を入 れる、部屋の掃除は私の仕事である。いつ の間にか、我が家ではこんなルールが出来 ていたのです。

「亭主元気で留守がいい」は医学的にも正 解であったのだ。(2006・1・14)

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