アンドレの「デジタルつれづれ草」45段

“面を打つ”

能面

能に使う面を、ノミを使って作ることを 「面を打つ」という。 「能」は今から600年以上も昔の鎌倉時代 後期から室町時代に始まったもので、もと もと野外に於いて、「薪能」という、自然 の中で催され、大衆と共に息づいたもの だった。

徳川時代になって、「能」は式楽としての 特殊な保護を受け、「能楽堂」という「象 牙の塔」に立てこもり、高度な芸術性を持 つ「詩劇」に変身して行った。 そして「能」は一般大衆からは完全に袂を 分けて、「お能は難しいもの」と、一般か ら敬遠されてしまった。 しかし、戦後になって、再び「薪能」が催 されるようになり見物客が殺到、能面、能 装束に見る特有の姿態、スリ足による緩慢 な動き、腹から出る謡声の大らかさ、裂ぱ くの気合で演奏される囃子の掛け声、自然 の中で観る能の素晴しさ、能と自然の見事 な調和に、その芸術性と自然を媒体とした 「薪能」の新しい発見があり、「能」は再 び大衆のものとなった。

鎌倉、室町時代の能面師によって制作され た能面を、ノミを使って忠実に再現する 「面打ち」を趣味とする人たちがいる。佐 鳴台公民館で活動する「面八会」もその中 の一グループだ。11月の或る例会日にグ ループの活動を見学させていただいた。 「面八会」は平成8年の結成で会員が現在 15名、その内女性会員が2名。何と一人は 20代だそうだ。会長さんは設立当初からの メンバーでアンドレメイトでもあるK.T さんである。 夜7時になると、公民館の和室に制作中の 作品と道具を持って会員が集まって来た。 それぞれ和室の隅の自分の場所に座って例 会が始まった。一人ずつ自分の制作中の作 品を講師に見て頂いてアドバイスを受けて いる。講師は本職は写真屋さんという富塚 町在住のKさんである。後はひたすらみん な黙々とノミで削っている。

今日が三作目の初日という女性会員に「完 成は6ヵ月後ですか?」と尋ねたら「とん でもない、1年後です」と、即座に返事が 返ってきた。何とも気の遠くなるような根 気のいる作業である。もう一度「面打ちの 魅力は何ですか?」と尋ねたら、「檜の角 材が次第に形になっていくことです」と答 えられた。この日新しく講師から受け取っ た檜の角材に鉛筆で下絵を書いて、荒削り を始めた女性会員の目がイキイキと輝いて 見えた。

能面は能の曲に合わせて150種から200種、 細かく分けると300種もあると言う。能面 は能芸術の命である。600年以上も昔から 伝わる能面を、寸分違わず忠実に再現する ことが要求される。目の大きさ、鼻の高 さ、頬の張り具合など、顔の造作のすべ数 分の一ミリ単位で忠実に再現されなければ ならない。しかも、顔の造作は左右対称で はない。微妙に大きさ位置などが違うので ある。 檜の角材をノミで数分の一ミリ単位で削る 作業だけでも根気の要る作業であるが、顔 の形が出来ると、胡紛を膠で固めた顔料を 何度も何度も塗り重ねて作るのである。ベ テランでも6ヵ月に一面、初心者は一面を 完成するのに1年がかりというのも納得で きる。さぞかし完成したときの喜びは如何 ばかりかと思う。

10月23、24日の公民館祭りに会員の作品が 展示された。いずれも素人の作品とは思え ない素晴しい出来栄えである。中には初め ての第一作という女性の作品もあり、その 見事な出来栄えにビックリである。 「面八会」の皆さんの作品を、「佐鳴の 輪」に掲載させていただいた。是非ご鑑賞 ください。(2004・11・19)

「佐鳴の輪」http://www3.tokai.or.jp/sanaru/

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