シリーズ“趣味に生きる”

“面を打つ”・・・「面八会」

能面を作ることを「面を打つ」という。「能面」は能を演ずる時に付ける仮面のことである。その歴史は古く、鎌倉末期から室町時代に掛けて能面師によって作られたものである。 能面は能の曲に合わせて150種から200種、細かく分けると300種にものぼるという。

能面は能芸術の生命である。「能面打ち」は600年以上も昔から伝わる能面を、寸分違わず忠実に再現することが要求される。眼の大きさ、鼻の高さ、頬の張り具合など、顔の造作の 全てミリ単位に忠実に再現する作業である。しかも、顔の造作は左右対称ではない、微妙に左右で大きさ位置が違うのである。

檜の角材をノミで数分の一ミリ単位で削る作業だけでも根気の要る作業であるが、顔の形が出来ると胡粉を膠で固めた顔料を何度も何度も塗り重ねて作るのである。 ベテランでも6ヶ月に一面、初心者は一面を完成するのに1年掛かりという。さぞかし完成した時の喜びは如何ばかりだろうか。



「面八会」は平成8年に結成され、会員は現在15名、女性会員も2名在籍している。その内1名は何と20代だそうだ。毎月2回、佐鳴台公民館で例会を開き、本職は写真屋さんという、講師の神埼元志さんの指導を受けて面打ちに励んでいる。

平成16年10月23、24日の佐鳴台公民館まつりに会員の作品が出展され、拝見させていただいた。いずれも素人の作品とは思えない素晴しい出来栄えである。なかには初めての第一作という新会員の作品とは思えない見事な出来栄えにビックリである。 展示された21点全てを掲載させていただいた。是非ご鑑賞ください。


平成16年11月の例会を訪ねて見た。一人ずつ自分の製作途中の作品を講師に見ていただいてアドバイスを受けていた。後はひたすら黙々とノミで削っている。 今日が三作目の初日と言う女性会員に「完成は6ヵ月後ですか?」と尋ねたら、「とんでもない、1年後です」と、即座に返事が来た。何とも気の遠くなるような根気の要る作業である。 もう一度「面打ちの魅力は何ですか?」と尋ねたら、「檜の角材が次第に形になっていくことです」と、答えられた。檜の角材にエンピツで下絵を書いて、荒削りを始めた女性会員の目はイキイキと輝いて見えた。
面八会の例会案内
毎月第一、第三金曜日、夜間
佐鳴台公民館和室
見学は自由です。興味のある方は是非のぞいて見て下さい。
代表:高田幸治郎(tel:053-454-1746)



黒式尉(こくしきじょう)

この面はほぼ翁面と同じ形式ですが、一般的に翁より子ぶりで黒いことと、眉毛が粗い植え毛であることが違っています。翁に比べ、田になじんだ庶民的な強健さが、どことなく感じられます。(泉亀三郎作)

翁(おきな)

天下泰平、国土安穏、五穀豊穣の祈祷、家門繁栄、子孫繁昌をもたらす祝言曲「翁」に使用する円満で柔和な福相をした老人の面。古い型を表す「切り顎」と「ぼうぼう眉」が特徴です。(吉田欣治作)

顰(しかみ)

眼、鼻を寄せて顔をしかめる動作からの名称です。眉、眼を怒らせ、口をカッ!と開いて上下の歯牙を表して怒号するよな激しい表情に特徴があります。 男性的な怒りの表情で、相手を威嚇する鬼神の面です。(鈴木利幸作)

小面(こおもて)

子面は、可愛い可憐な清純さを表した年若い処女の面です。若い女面の原型で、全能面の代表的な存在です。小面の毛書きは額で左右に分かれた三本の毛筋が平行しています。(村越哲朗作)

平太(へいた)

歴戦の勇者らしい中年の強い武将の面です。鎌倉時代の武将「悦賀楽(えがら)の平太」を写したと言われています。「田村」「兼平」に使用します。(高田幸治郎作)

痩男(やせおとこ)

生類殺生の罪で地獄に落ち、成仏できず亡者になっている霊、恋にやつれ死んで亡者になっている霊の面です。(伊藤久仁俊作)

十六(じゅうろく)

平家の公達、弱冠十六歳の敦盛を写すといわれ、多情多感な公達の面影が偲ばれる面です。彩色白く、いたって上品で女かと見紛うほどであります。面裏は褐色の拭き漆で仕上げられます。(中村藤吉作)

般若(はんにゃ)

女性の怒りと悲しみを込めた鬼女の面です。桃山時代に般若坊という面打師がよく鬼の面を打ったため名がついたと言われます。上に向けると威嚇の表情に、下に向けると苦悩の表情にと複雑に変化する優れた造形面です。 (後藤友彦作)

小飛出(ことびで)

大飛出が天上をかける神であるのに対し、小飛出は地上を軽快に駆け巡る、一種超人的な狐神や妖精の面で、悪意のない精悍さの感じられる面です。(講師:神崎元志作)

山姥(やまんば)

山姥は山に住む鬼女です。四季折々に山を渡り歩く山の精で、鬼ではなく人間的な美しさを併せ持っていると言われます。(講師:神崎元志作)

賢徳(けんとく)

動物や昆虫、植物等を擬人化した、ユーモラスな面。馬や蟹などの役に用います。(泉亀三郎作)

喝食(かっしき)

渇食とは禅寺で食事を告げる半僧半俗の下働きの少年で、室町時代には種々の遊芸にも堪能なものいたようです。「自然居士(じねんこじ)」「東岸居士(とうがんこじ)」などの曲に用いられています。(岡崎巨晋作)

孫次郎(まごじろう)

豊麗な小面に比し、頬が引き締まり、気品の中に色気が漂う成熟した女性美を表現しています。能役者金剛孫次郎が、若くして世を去った妻の面影をとどめようとして打ったと言われています。(北條良衛作)

大べし見(おおべしみ)

大べし見の特徴は、まず鼻と口にあります。口をへに字に結び両唇をかみ合わせ、頬の両端を張り出し、その上に大きな鼻がすわっています。全てが大きく誇張されている面です。(横山利彦作)

夷(えびす、恵比寿、蛭子とも書く)(狂言面)

延命冠者の転化面であり、目を細めて笑いの表情豊かな神の面です。 七福神の一つで「えべっさま」等と呼ばれて、大黒とともに一般に親しまれている面です。への字に目を細め、にこやかに笑っています。(鈴木利幸作)

万媚(まんび)

小面系統の面ですが、目元や口元に媚(こび)を含んでおり妖艶で、その名は百、千の媚に勝るという意とのことです。年齢的には若い面ですが、髪の乱れからすれば、小面より年上で若女より年下というところでしょうか。(後藤友彦作)

大飛出(おおとびで)

眼球が大きく突き出している為に名付けられたと言われ、開いた大きな目、クワッ!と大きく開いた口、正に陽性の神の歓喜の絶頂の姿を表しています。雷神となった管公の表情とも言われています。(中村藤吉作)

泥眼(でいがん)

金泥を施した眼を持った女面がその名の由来で、これは目に金具を入れてあるのと同じように超人的存在を表現しています。口は両端を後方に引き、全体に妖気の漂う相貌をしています。(伊藤久仁俊作)

小面(こおもて)

子面は、可愛い可憐な清純さを表した年若い処女の面です。若い女面の原型で、全能面の代表的な存在です。小面の毛書きは額で左右に分かれた三本の毛筋が平行しています。(今村章乃作)

空吹(うそふき)(狂言面)

うそは口笛の意で、とがった口、飛び出た眼に特徴があります。昆虫や果実、蛸等の精として「蚊相撲」「果実争」などに使用します。(高田幸治郎作)

猿田彦(さるたひこ)(神楽面)

猿田彦は「天孫降臨」という神楽に出てくる神様です。この神様は赤鼻白髪でしかも鼻が高かったことからこのような面が使われますが、よく村祭り等で使われる天狗の面がこれです。(横山利彦作)

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