シリーズ“趣味に生きる”

“冬の貴婦人・クリスマスローズ”を
わが子のように愛する今井富士子さん

古くなるほど味が出る庭に花や緑もしっくりなじんでいます。心が安らぐ花と緑に囲まれて暮らす幸せ、ガーデニングは私のエネルギーです。今、この庭一面にクリスマスローズが咲いています。35年前、一株を買って育て始め、種からかわいがって約50株増えました。ミツバチが自然交配してくれた我が家のオリジナルがたくさんあります。最近ブームになりましたが、りんとした魅力にとりつかれ、長い間子供を育てるように大事にしてきました。3年たてば花が咲くようになります。パステル調の色彩に染まる庭を毎日うっとり眺め、「青空の下の部屋」感覚を楽しんでいます。オープンガーデンにしていますので、大勢の人が訪れてくれます。私の育てたクリスマスローズを見て感動してくださるのが励みになります。夫も協力してくれるので助かります。生涯現役で健康に気をつけて、大好きなガーデニングに頑張りたいです。(今井富士子さん寄稿:静岡新聞2007・3・5夕刊「つぶやき」に掲載原文のまま)


知人のNさんの紹介で、2006年より富塚町でオープンガーデンをやられている今井富士子さんのお宅を初めて訪問した。一般的には庭の花は春4月からがシーズンだが、今井さんの庭はクリスマスローズがメインで、冬が最盛期だという。今が一番美しい時と聞いて早速予約の電話を入れたら、受話器の向こうから明るい元気な女性の声が飛び込んできた。「ぜひ見に来てください、午前中ならいいですよ。午後は孫を迎えに行かないといけないけど」と、知らない私を大歓迎してくださるご返事だ。

早速予約日の晴天の早朝、約束の9時半にお邪魔した。朝9時半は少し早くてお邪魔かもしれないが、花は早朝が一番美しいこと、朝の斜めの柔らかい光が花を一番美しく見せることを説明して、花好きな人なら必ず理解してくださるはずだということを知っての頼みだ。一般の住宅街の中で、一見してガーデニングをしているお宅とすぐに見分けがつく庭だ。小高い南の角の日当たりの良い庭だった。小じんまりした庭にアンティーク調の鉢に植えられたクリスマスローズが庭一面に咲き誇っていた。

玄関のベルを鳴らすとすぐに奥さんが出てきてくださった。電話の声と同じ気取らない感じの小柄な普通のご家庭の奥さんだ。早速庭中のクリスマスローズの花の説明をしてくださった。もともと花は好きっだたという。35年前に一株買って育て始めたクリスマスローズも、今では約30種類ほどが咲いているという。白い花、ピンクの花、グリーンの花、紫の花、黒い花など、よく見ると、一株一株、花の色が微妙に違っている。

2006年にオープンガーデンにして、新聞やテレビで紹介されてから、遠方から見学にやってくる方が絶えないという。マスコミ取材も毎年あるそうだ。花が縁で親しくなったお友達もたくさんできたが、最近あるパン屋さんの奥さんがガンで亡くなって、今井さんのクリスマスローズが、今でもそのパン屋さんの庭で咲き続けているというお話を伺いました。花が縁でいろいろな人と交流が生まれ、花は自分の人生を豊かにしてくれているといいます。

今井さんのお話の中で、必ず庭の花を「この子」と呼んでいるのが印象的でした。花を自分の子供のように可愛がっている様子が伺われ、心のやさしい女性なんだなと感じました。一通り庭の花の説明をお聞きして、花の写真の取材が終わったところで、コーヒーを入れてくださいました。庭の奥のベンチに腰かけて、クリスマスローズの花を眺めながら温かいコーヒーをいただくと、まさに「青空の下の部屋」の爽快な気分でした。

今井さんの庭の花はクリスマスローズのほかに、6月に咲くアナベルがあるそうです。アナベルとは別名西洋アジサイと呼ばれ、日本のアジサイに似た白い清楚な美しい花だそうです。冬は根元近くまで株が刈られて丸坊主ですが、春になると芽が出て枝が伸び、青々とした葉が茂って、6月には美しい白い花が咲くそうです。花が終わったらドライフラワーにすると、いつまでも楽しめますよ、とおっしゃって、部屋の中も案内してくださいました。部屋の中は、やはり奥さんの大好きなアンティークに囲まれて、アナベルのドライフラワーがいっぱい飾られていました。

時計を見たらなんと11時半、たっぷり2時間もお邪魔してしまいました。ご主人は2階にいらっしゃるようでしたが、「主人は花には興味がないので、その分私が自由にできます」とおっしゃった。それでも、車の運転のできない奥さんのために「花屋に一緒に車で行ってくれたり、花に水をやったり協力してくれるので感謝しています」とおっしゃいました。帰りに門の前で手を振って送ってくださいました。ほんとに花を愛し、花に囲まれて幸せそうな今井さんの笑顔がいつまでも忘れられませんでした。アナベルの花が咲く6月にはまた訪れようと思います。(2008・3・5)


<クリスマスローズとは>
クリスマスローズはキンポウゲ科ヘレボラス属の一種ニゲルのことをいう。ニゲルはヘレボラスの中で早咲きで、クリスマスの頃に咲くので「クリスマスローズ」という名がついた。ヘレボラスの魅力は、何といっても花の少ない1〜3月に次々と花を咲かせることです。花色は、白、黄、緑、ピンク、赤、紫、黒といった基本的な色や、それらが複雑に入り交じった中間色があり、微妙に変化する。更に網目系、覆輪系、復色系の要素が加わり、一つとして同じ花色がないのが魅力。単に花色だけでなく、花の形状も八重咲き系やカップ咲き、剣弁咲きなど様々で奥が深い。

実はみなさんが花弁だと思っているのはガク片で、本来の花弁は退化して密管となり、目立たなくなっている。しかし、寒さに強く、花の少ない冬から春にかけて咲き続け、花期も長く日陰に耐えることができる貴重な植物で、その花は気品に満ちて、まさに「冬の貴婦人」の名にふさわしい。


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