アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.99

“音楽仲間に連続して起きた3人の人生模様”

20年前に結成した市民アンサンブルの仲間が25人ほどいる。私を含め、そのうちの10人ほどはすでに後期高齢者で半数の5人は80歳を越えている。2018年の1年間の間に連続して起きた3人の様々な人生模様があった。

76歳のリコーダー担当のKさんが5月のある日「急にやる気がなくなってしまったので練習を休ませてください」と、突然大きな演奏会の本番直前になって訴えてきた。20年も一緒にやってきて、三度の飯と同じくらい音楽が好きだったはずの彼の口から出てきた言葉にビックリした。こういうのを「老人性うつ病」と言うのだろうか。6月の本番の日に「この度は突然ごめんなさい」と彼は菓子折りをもって楽屋に顔を出してくれた。思ったより元気だったので少し安心したが、その後の彼の様子は聞いていない。もう少し経ったら彼の心の変化を聞いてみたいと思っている。

86歳になるYさんから10月のある日、「今年の年末で自動車の運転を止めるのでアンサンブルを退会します」との申し出があった。彼はアコーディオンを担当しているが、いつもイタリア製の特注の重量が13kgほどある高級なアコーディオンを車に積んで練習に来る。車が乗れないとこんな重い楽器は運べない。86歳とは思えないほど元気な彼が急に車の運転を止めるのは、多分彼自身の意志と言うより家族に車の運転を止められたのだろうと推測するが、そのことは彼の口からは出なかったし、こちらからも聞かなかった。彼の年齢からすれば〜車の運転を家族から止められる〜という話は、世間ではよく聞く話だ。

ちょうど80歳になるFさんはテナーサックスを担当し、いつもムード音楽には欠かせない素晴らしい音色を聞かせてくれる。9月ごろに彼の口から「肺に水が溜まるようになったので、いつサックスが吹けなくなるかも知れない」との申し出はあった。そんな彼は10月の協働センター祭りでの「ふれあいコンサート」では見事な演奏をしてくれた。その後「体調を悪くして入院したので練習をお休みします」とのメールが本人からあって、12月の演奏会は残念ながら参加できなかった。私が彼に出した今年の年賀状に、「無事病気が治って元気になったら、また一緒に演奏しましょう」と書いた。正月の松の内が明けたばかりの1月9日に、彼と親しい会員のSさんから急に私の携帯に電話が入った。「Fさんが1月8日に急に亡くなりました。通夜は11日で、葬儀は12日です」との連絡だった。余りの急な訃報にビックリした。すい臓ガンだったとのことだった。12日の葬儀に参列し彼との最後の別れを惜しんだ。10月の時の様子では、まさかそんなに体調が悪くなっているとは思いもしなかった。今では医師はガンの告知は本人に直接説明するので、彼は当然すい臓がんのことは知っていたと思うが、そんなことは少しも口にも態度にも現さなかった。彼の場合は死の直前まで好きな音楽を楽しみ、長く患うこともなく男の平均年齢の80歳まで生きて、最後は家族に看取られて亡くなるという、まさに理想的な人生だったと思う。(2019・1・20)

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