アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.71

“シクラメンの季節”

今年もとうとうシクラメンの花に囲まれる季節になってしまいました。花屋の店先はもちろん、レストランや喫茶店、ブティックのウインドウなど、いたるところに赤やピンク、白のシクラメンの鉢植えが飾られています。シクラメンは「冬の鉢花の女王」です。わが家にもいただきものの鮮やかなピンクと赤のシクラメンの鉢植えが玄関を飾っています。愛らしく可愛らしい花は下向きに咲くので「内気」「はにかみ」という花言葉を持っていますが、赤い花は燃え上がる炎≠連想させるので、「嫉妬」という過激な花言葉も持っています。今年の暮れもシクラメンは何事もなかったかのように、いつもの美しい花を咲かせて人々の心を慰めてくれています。

しかし今年ほど様々な出来事があッた年はなかったのではないでしょうか。勿論一番身近で大きな出来事といえば3・11東日本大震災と大津波、福島原発事故です。すべてが想定外の大災害と大事故でした。3月12日に九州新幹線が全線開業となり、本来なら晴れやかな式典が行われる予定だったが、東日本大震災発生により中止されてしまい、明るい話題が消えてしまった。この大震災のひと月前の2月22日にニュージーランドのクライストチャーチ市で大地震が発生し、ビルが倒壊して日本の学生が多数犠牲になったばかりでした。いつも思うのですが、専門の学者たちが相当研究を重ねているにもかかわらず、地震予知はできないということです。「東海地震は30年以内に87%の確率」などと言われても、避難準備のしようがありません。その時の運というしかないような気がします。

今年は台風の被害も大きなものがありました。特に12号による被害は和歌山県、奈良県を中心に紀伊半島への豪雨による被害が甚大で、川が土砂でせき止められ、住宅が流され、集落が孤立し、全国で死者行方不明者は92名に上りました。その後発生した15号は浜松市に上陸しびっくり、東日本に上陸した台風の中では戦後最大級の勢力でした。東日本の被災地では大地震大津波に続く台風被害で大変でした。浜松で台風による避難勧告が出たのも初めてでした。屋根瓦が飛んでビニールシートを被った家がたくさん見られました。近所の佐鳴湖公園の樹木も軒並み無残に倒れていました。隣国タイでも想定外の大規模な洪水が発生し北部に降った鉄砲水はメコン川などの大きな川に流れ込み、下流の平野部の広範囲に洪水被害が広がり、7月から3か月以上にわたり国土の3分の一が洪水被害を受けたといいます。日本の企業の多くが進出している工業団地も浸水被害に遭い部品や製品が間に合わないなど大きな影響がでました。

アラブ諸国では、「アラブの春」と呼ばれるの長期独裁政権に反対し民主化を訴える大規模な反政府デモや抗議活動が連鎖のごとく起こり、チェニジアのジャスミン革命に端を発したこれら反政府運動は、その後エジプトのムバラク政権、リビアのカダフィ政権も崩壊に追い込まれ、カダフ大佐は立てこもり先で反対派に殺害されてしまった。ヨルダンのサミール内閣も総辞職、イエメンのサーレハ大統領も退陣に追い込まれました。長年続いた独裁政権が数カ月で民衆のデモで揺らぐ背景には、インターネットの普及によるソーシャルネットワークと呼ばれるツイッターやフェイスブック、携帯電話の普及の影響が大きいと言われます。情報が瞬く間に民衆の間に広がっていく、今やこの動きは誰にも止められない。中国政府も民衆のこのような動きに警戒感を強めていると言います。アメリカでは長期にわたる不況で1%の富裕層と99%の貧しい民衆という構図の格差社会に抗議するデモが続いた。ヨーロッパでも同様のデモが発生している。世界の先進国はどこも格差社会が広がり、日本も一億総中流社会は昔の物語、今や欧米と同様の格差社会になってしまった。ギリシャの財政破たんはヨーロッパ連合全体を巻き込んで金融危機を招きかねない状態になっている。ヨーロッパも今やどの国も経済的に苦しんでいる。

今年も各界で活躍した人たちがたくさん亡くなっている。印象に残っている人を挙げてみよう。歌手の山下敬二郎さんは落語家柳家金語楼の息子で青春時代の懐かしい歌手だった。タレントでコント55号の坂上二郎さんはベッドの上で萩本欽一さんに「もう飛べません」と言ったのが最後のギャグだったとか。俳優の長門裕之さんは認知症になった奥さんの南田洋子さんの献身的な介護が印象的だった。作家の小松左京さんは「日本沈没」など、日本のSF界をリードした。女優のエリザベス・テイラーさん、彼女の映画は「ジャイアンツ」を始め青春時代にたくさん見ている。歌手で女優の元キャンディーズの田中好子さんは、葬儀の時の「一生懸命病気と闘ってきましたが、もしかすると負けてしまうかもしれません・・・」という彼女の肉声の言葉が涙を誘った。タレントの前田武彦さんは放送作家や司会などでテレビ界の黄金時代を築いた人だった。落語家の立川談志さんは落語協会を脱退するなど、豪放で型破りの毒舌家だった。プロゴルファーの杉原輝雄さんは癌と闘いながら生涯現役を貫いたのは立派だ。米アップル社創業者のスティーブ・ジョブズ氏は独創的で革新的なIT機器を開発したカリスマ的存在だった。そしてビックな人といえば北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記だった。北朝鮮が今後どのように変わるのか世界の注目の的である。ビックな人といえば、アルカイダの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者がアメリカの特殊部隊に殺害された。それ以外にも多くの著名人が亡くなっている。

もちろん暗いニュースばかりではありません。7月17日にドイツで行われたFIFA女子ワールドカップサッカーでなでしこジャパンはアメリカと決勝戦を戦い、2対2の同点によるPK戦で見事に優勝を果たした。澤選手の同点ゴールは神業的であり、PK戦で勝った瞬間のあの感動は今でも忘れない、男子サッカーに劣らない試合内容だった。なでしこジャパンはその後政府から団体として初めての国民栄誉賞が与えられた。八百長問題で揺れた大相撲も何とか本場所が復帰し、久しぶりに琴奨菊と稀勢の里の二人の日本人力士の大関昇進を迎えることができたのは明るい話題だった。その他の明るいニュースといえば、自立式電波塔では世界一の高さを誇る634メートルの東京スカイツリーが完成しギネスブックに載った。来年5月に開業だそうだが、一度は展望台に登ってみたいものだ。今年の漢字は「絆」だった。私の予想通りだった。東日本大震災で人々の価値観や人生観が大きく変わった。地域や家族の絆が見直され、絆を求めて結婚を考える若者も増えたという。

いろいろあり過ぎた1年だった。相変わらずテレビでは東日本の震災の状況、復興の状況が報道され、新聞には死者、行方不明者の人数と各地の放射線量が載っている。瓦礫はだいぶ取り除かれた感じはするが、一か所に山と積まれた状態で処理はほとんど進んでいないようにも見える。被災各自治体の復興計画も具体的になかなか進まず、どうすべきか先が読めない状態で苦慮しているという。住民は離散して人口が減っている、戻りたくても働くところがない、住む家がない。福島原発の避難地域では、この先30年は戻れないとも言われている。このような国の非常事態に政府の対応が何かテキパキ動いているように見えない。消費税を上げるのは最終的に止むを得ないのは理解できるが、それより先にやるべきことがあると思うのだが。東海地震も近い将来必ずあるという。富士山の噴火も噂されている。そんな不安材料はあるが、何とか来年は明るい年になって欲しいものである。(2011・12・28)

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