アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.62

“有名なお寺にも悩みが”

細江町気賀にドウダン(満天星)ツツジの庭で有名な長楽寺がある。歴史は古く、平安時代初期の大同年間(西暦806〜9年)に弘法大師によって開かれたといわれる。満天星の庭は小堀遠州作と伝えられる遠州流の名園である。本尊の馬頭観音菩薩像は鎌倉期の作と言われ、「遠州の野仏」の取材でも以前何回か訪れている。今回は「新浜松自然100選」の取材で再び訪れた。秋も深まってドウダンツツジが赤く染まったころを見計らって訪れたのは11月18日の木曜日の午前。駐車場には1台の車もなく、階段を上って行くと山門は閉まって張り紙がしてあった。「門が閉まっているときは、裏の門から自由に入ってご鑑賞ください」とあった。しかし部屋に上がって客殿からも庭を見たいので、この日は諦めて方広寺の取材に行くことにした。

2日後の20日の日曜日の10時ころ再び訪問した。駐車場には1台先客がいた。階段の途中でイーゼルを立てて画用紙に絵を描いている古老の男性がいた。この日は山門が開いていた。入って行ったら初老の男性が出てきた。「ドウダンツツジはもう赤くなっていますかね」と尋ねると、「赤くはなっていますがあと1週間くらい後のほうが良いですよ。どうぞ庭に回ってみて見てください」といった。300円の拝観料を払うのは後にして早速庭に回ってみた。結構赤く色づいてはいた。「もう1週間すると後ろのモミジも赤くなって、ドウダンツツジももっと真っ赤になりますよ。後ろの山も紅葉して綺麗ですよ」といった。他に客はいないので雑巾で柱や机を拭きながら私と話を始めた。

「花や紅葉を撮るときはその年で時期や条件が変わるので難しいですね」というと、「そうですね。梅は今年は咲いたと思ったら1週間で散ってしまいましたよ」という。花の咲いている期間の長い梅にしては異常である。長楽寺は満天星の庭とともに初春の梅の花で有名である。梅の花の時期にはお寺の北の広い梅園にどっと観光客が押し寄せる。「満天星の庭の管理も大変ですね。県の重要文化財に指定されていますが補助金はもらえるんですか?」と聞いたら、「補助金は一切ありませんよ。1年に1回管理状況を見に来るだけですよ。檀家が15軒では管理は無理ですよ。梅園の管理も花が咲くようにはしていますが、ほとんど管理ができていません」といった。聞くところによると、檀家が15軒で現在住職もいないので、鴨江寺の住職に兼務してもらっているという。山門を開くのもこの初老の檀家の男性が土日だけ来て開けているが、普段は閉めざるを得ないのが実情のようである。歴史のある有名なお寺と言えども管理にはお金も手間もかかる。土塀もかなり朽ち果てている。ただ同情するだけではどうにもならない現実があるのだ。

折角来たので何回かシャッターを切った。午前10時を回っていたが庭の手前の池がほとんど建物の陰になって暗くつぶれてしまった。もう少し早い時間に来ないと無理なようだ。1時間ほど話したり写真を撮ったりしていたが、訪れる人は私のほかには誰も来なかった。やがてお坊さんが袈裟を着てやってきた。やはり鴨江寺からのようだった。「また後日来るかもしれませんがありがとうございました」と言って、拝観料300円を支払って山門を出た。(2010・11・23)

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