アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.60

“消えた高齢者問題”

東京足立区で111才とされていた男性がミイラ化した遺体で発見された事件の発覚以来、毎日のように新聞やテレビで100才以上の高齢者の行方不明問題が取り上げられ、全国で所在不明者が続出している。100歳以上となると、その子供も70才以上の高齢者である。杉並区のある女性(74才)は、母は次男と一緒にいると思っていた、40年前から母とも兄弟とも連絡を取っていない」と話した。次男は「母は30数年前に勝手に出て行って連絡が取れない」という。東京のある男性は「母親は死んだが葬式を出すお金がなく、自宅で遺体を処理し遺骨にした。生活は母親の年金が頼りだったので、死後も受け取っていた」というのもあった。

日本のこの問題を受けて海外メディアは早速「”幽霊高齢者問題”が日本社会を揺るがしている」「”高齢者天国”日本のイメージに泥を塗る」「”日本=長寿国家”は虚構?」などと一斉に報道している。日本の女性の平均寿命は86.44歳で世界1位、男性は79.59歳で世界5位は統計的にはあまり影響はないという。しかし、高齢者の安否の確認への無関心ぶりが浮き彫りになり、長寿国としての信頼はガタ落ちしてしまった。

家族ですら結びつきが弱くなっている現代社会の実態が次々に明らかになっていく。長寿者が生きているかどうかの把握さえ困難になっているのだ。核家族化が進み、家族関係が希薄になり、高齢者が身内や血族に頼っていくのは難しい世の中になったのか。最近は「核家族」さえ崩れ「個族」の時代とも言われている。「遠くの親戚より近くの他人」という言葉もある。地域の住民同士、隣人同士が絆を深め、家族に代わる新しい形の絆を作れたらと思うが、それも都会では無理か?と悲観的になってしまう。常に顔を見て挨拶できる隣人同士でいたいものだ。

我が家の周りを見ても高齢者の独り暮らしが多くなった。たまたまかみさんが民生委員に携わっているので、毎月担当地域の独り暮らし宅を訪問して安否を確認しているので、この地域での独り暮らしの高齢者の所在不明者はいないと自信を持って言える。しかし、問題は家族と一緒に暮らしている高齢者は民生委員の訪問対象外だ。むしろこちらのほうが今問題になっているのだ。訪問して「寝たきりですが家で元気にいます」「○○老人施設に入所いてます」と言われれば、それ以上「確認させてください」とは言えない。最近は「個人情報だ」「プライバシーだ」と地域や隣人に背を向けてしまう人もいるという。こうなると地域の役員ではどうすることもできない。行政が法的に何とかしないといけない。

こんなことを書いているうちに、今度は戸籍上148歳が、169歳が現存していた事実があちらこちらの自治体で明らかになった。中には186歳が戸籍上生きているという。坂本竜馬より12歳先輩、西郷隆盛よりも3つ年上だという。市の職員は「死亡届が出されないと、こちらでは抹消することができないので」という。言われればその通りだが、年金問題も含めて、役所も、市民のある年齢以上の高齢者は能動的に確認する体制を確立するべきだろう。

「敬老の日」を目前にして、人生の先輩に対してして長寿者を祝う気持ちよりも、長寿社会の日本の将来がどうなってしまうのか不安でいっぱいである。(2010・8・28)

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