アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.59

“ノアザミの見事な仕掛け”

散歩をしながら野の花を見るのは楽しいものである。何気ない雑草の花も、顔を近づけてよく見ると美しいもである。花は単に美しいだけでなく、植物にとってはだいじな子孫を残すための生殖器官でもある。花には子孫を残すために様々な工夫と仕掛けが隠されている。初夏から夏にかけて野の花の中でもひときわ背が高く目立つ花にノアザミがある。ノアザミのピンクの美しい花を見ると、つい顔を近づけてしまう。盛んにチョウやハチが蜜を吸っている。ハチが蜜を吸っている花をよく見ると、筒になった雄しべの先から白い花粉が出ていた。しかし、ハチの止まっていない隣の花は花粉が出ていない。

ノアザミの花は小さな筒状の花が100個から200個が束になった集合体である。その小さな筒状の花は、外の筒が雄しべで、中央に雌しべの先が通っている。それぞれの雄しべの下にやはり細い筒状の花びらがあり、その筒の中に蜜を蓄えている。この蜜を吸いにやってきたチョウやハチは足を曲げて口を長く伸ばして花の奥の蜜を吸うと自然と雄しべと雌しべに触れる。すると刺激された雄しべの先端が縮んで白い花粉が出てくる仕掛けになっているのだ。試しに隣の花を草の葉っぱなどでそっとなでてやったら花粉が出てきた。わざわざ蜜を花の奥に隠して、雄しべと雌しべに確実に触れる仕掛けになっているのには感心する。

植物も動物と同様に、同じ個体の雄しべと雌しべ同士が受粉する自家受粉よりも、出来るだけ遠縁の個体の花粉を受精するほうが優秀な遺伝子の種ができる。植物だって近親結婚はあまり良くないのだ。人間も国際結婚をすると優秀な子どもが生まれるという。だから出来るだけチョウやハチには花粉を体に付けていろいろな花を飛び回って欲しいのである。ところで最近ミツバチが不足して果物の花の交配に支障をきたしているというニュースをよく聞く。そんな事情が背景にあるのか、養蜂家のミツバチや果物の花の交配用のミツバチが盗難に遭ったというニュースもよく聞く。

そういえば、庭にナメクジはたくさんいても、梅雨の季節になってもアジサイの葉っぱにカタツムリの姿を見なくなってから久しい。カタツムリは農薬で絶滅してしまったのか。自然界からチョウやミツバチがいなくなったら、虫媒花の植物は交配ができなくなって種を作ることができない。子孫を残すことができなくなってしまう。美味しい果物もできなくなってしまう。自然界の掟がどんどん破壊されてやがて地球上から花も果物も緑の植物もなくなってしまう。(2010・7・20)

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