アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.55

“風力発電の超低周波公害問題”

地球温暖化対策は将来の地球上の生物が生き残れるかどうかの重大なテーマである。人類は今や電気がないと全く生活できないシステムになってしまったので、電力供給システムをどうするかが大きな課題になっている。日本も水力発電から原子力発電にシフトしてきたが、原子力発電もウランの扱いや放射能漏れ問題など、様ざまな問題が山積である。地球環境にやさしいエコキュートなエネルギーとして、太陽光発電に並んで最近急に普及してきたのが風力発電である。自然の風を利用するので、一見クリーンなエネルギー供給手段だと思われる。しかし、風力発電にも世界中で様ざまな問題が持ち上がっている。

風力発電はお隣り中国はもちろん、デンマーク、ドイツをはじめとしたヨーロッパ、アメリカも積極的に取り組んでいる。国土の広い国は良いが、狭い日本ではどうしても居住地の近くに設置せざるを得ない。多くは小高い山の頂上や海岸沿いに設置されているが、どうしても近くには民家があるところということになる。最近こうした近隣の住民から耳鳴り、頭痛、睡眠障害、肩こり、イライラ、集中力の低下などを訴えるケースが出ているという。風車から発せられる低周波が原因ではないかと専門家の間で研究が始まっているが、この分野の専門家も少なく、行政もまだ対応できる状況にないようだ。厄介なのは、電磁波の問題と同様に、過去に前例のない分野ということだ。耳に聞こえない物体はその因果関係を証明するデータがまだないことと、法律的にも公害防止法の枠外の分野ということだ。

自衛隊のジェット機のエンジン音や隣家の犬の鳴き声がうるさいとか、ピアノの音やテレビの音量が大きすぎるなど、耳に聞こえるものは誰にも理解しやすい。しかし風車の超低周波は100ヘルツ以下で人間の耳には聞こえない。騒音公害とは違うので騒音測定器で測っても騒音にはならない小さな数字にしかならないらしい。なんとなく空気全体が「ゴーン」 とか「ズーン」という、音にはならない「空気の振動」ということだ。しかし、毎日昼も夜もこの空気の振動が起こっているとすれば、共鳴振動で家全体が微妙に振動していたり、身体に異常が発生するかもしれないというのは、「そういうことはあり得るな」と思う。騒音公害とは違うので日本にはまだ低周波音の基準値がなく、生理的障害を医学的に証明することは難しい。しかも感じ方には個人差もある。

風力発電は低周波障害問題のほかにも、様ざまな問題が提起されている。水力や火力、原子力と違って風力発電は自然界の風まかせなので発電量を人間がコントロールできない、発電量の計画が全くできないということになる。夏場の電力が最も不足する時期は強い風も余り吹かない。しかも巨大風車の耐用年数は17年だそうだが、落雷や強風で故障が多く、風があるのに回っていない風車をよく見かける。単なるオブジェ化した風車も結構あったりする。

地球温暖化対策の推進で国の政策として始まった風力発電ではあるが、低周波公害問題は避けて通れない問題だ。人間の住んでいないところとなると自然豊かな地域となるが、これは自然破壊につながってしまう。やがて自動車もガソリンエンジンから電気自動車の普及へと進んでいくものと思うが、ますます電力が必要になっていく。環境破壊や地球温暖化、人間の健康被害のない、ほんとにクリーンな電力供給システムが作れないものか、全世界規模で知恵を絞って行かないと人類の未来は開けない。(2010・3・20)

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