アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.43

“満開の「駒つなぎの桜」と夢の出会い”

駒つなぎの桜
「駒つなぎの桜」長野県阿智村

30年以上も前の、写真に夢中になっていた頃の昔むかしの話である。写真雑誌の中にあったコンテスト入選作品の中に「駒つなぎの桜」と題した満開の桜の巨木の写真があった。水田の水に映ったその桜の巨木の美しさに「一度是非会いたいなあ」という思いがずーっと胸の中にあった。昼神温泉の近くなので時々近くは通るのに、なかなか桜の花の季節とタイミングが合わなかった。20数年前、季節外れの時期に近くを通ったついでに場所を確認しておこうと訪ねて、葉桜を見に来たことはあった。狭い急な坂道を登った所で、駐車場もない狭い場所にその桜の巨木があったという記憶しかなかった。

たまたま久しぶりに予定が空いた4月19日の日曜日、お天気も上々だったので、いつもの兄弟夫婦を誘って昼神温泉近くの「花桃の里」にドライブ旅行を計画した。最近は貧乏暇なしで、月に1〜2日しか空いた日がない。考えてみたら今年初めてのドライブ旅行だった。そう言えば今年は梅の花も見に行っていなかった。高速道路は変化に乏しく好きではないので、一般道路の山道をくねくねと登って行った。途中いつもの道の駅に立ち寄って、地元の農産物などを買い込みながらの、のんびり楽しいドライブ旅行である。10年ほど前までは、花の写真を撮りに年に10回以上通っていた馴染みの道だ。

道中ところどころ遅い桜が咲いていたり、ミツバツツジが咲いていたりして美しい。昼神温泉近くに来たら、赤、白、ピンクの花桃の花がいたるところで満開に咲き誇っていた。3時間ほどかかって「花桃の里」にたどり着いた。花桃の木はまだ若い木が多かったが、見事にあたり一面に華やかに咲き乱れていた。観光客も賑やかであったが焼きそば程度を売っているテントはあっても、昼食をする店がなかったので、取り合えず大福餅を頬張って空腹を満たした。

さて、「駒つなぎの桜」は花桃の里の帰り道、北に折れて2キロほど登ったところにある。満開は例年は4月の末から5月3日ごろと記憶していたので、少し早いかなと思ったが、ここまで来たら寄らない手はないと行ってみた。20数年前に来た時より随分様子が変わっていた。ところどころに無料駐車場が完備され、地元のボランティアが誘導していた。駐車場に車を止めて少し登ったら、立派な食堂や資料館が出来ていた。何でも、まだ完成して1周年だそうだ。やっと食堂で遅めの昼食をいただいた。昼食の蕎麦と一緒に出た五平もちはあっさりした味噌ダレで結構美味しかった。さて「駒つなぎの桜までここから歩いて900メートル」と書かれた上り坂を登って行った。

上り坂の900メートルはなかなかきつかったが、やがて遠くに満開の桜の木が見えてきた。「もしや、あの桜がそうか?」と期待して近づいたら、やはりそうだった。花桃の花に連れられてやってきた甲斐があった。30数年ぶりの思いが実現した。まるで写真でしか会ったことのない彼女に出会ったような気持ちだった。さぞかしカメラマンが大勢詰めかけているのでは、と思っていたが、もう午後とあって、それほどでもなかったのは幸いだった。ほんとに写真を趣味とする人は、こんな日中にはやってこない。早朝、朝日が昇ると同時に行動を開始する。20数年前に場所を確認のために来たのは、まだ朝暗いうちにこの場所に来れるようにとの思いからだった。今はそんな写真に夢中になることからは少し遠ざかってしまったが。

最近年齢とともに桜の花が好きになってきた。パッと咲いて、パッと散るはかなさが心に何か共鳴するのだろう。それも巨木の1本桜がいい。しかし、そんな桜は山の奥の不便な所に咲いている。桜は花の時期が短いうえに年によって咲く時期が1週間以上もずれてしまう。満開の時期のお天気と自分の都合の全ての条件が揃うのは稀有なことだ。ほんとうにラッキーな出会いだった。(2009・4・19)

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