アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.19

“今日の一日は朝の一杯のコーヒーから”

コーヒーの花
コーヒーの花(2004・5浜名湖花博にて)

私は「 コーヒー通」 というほどではないがコーヒーが好きである。毎朝、食後に熱いコーヒーを飲まないと口の中が締まらない感じがする。必ず豆を挽いたドリップコーヒーを入れて飲む。時間がない時は仕方なくインスタントを飲むが,インスタントは所詮インスタント、ドリップコーヒーにはかなわない。真夏でもホットである。以前は飲む直前に豆を手で挽いてドリップしたが、今は引いてもらった粉をコーヒーメーカーで入れている。別に通ぶっている訳ではないが砂糖やミルクは入れない。そのほうがコーヒー本来の味が味わえる。

コーヒーのルーツはエチオピア付近だといわれている。エチオピア南部の地名「カーファ」がなまって「カフェ」になったと伝えられている。ヤギ飼いの少年カルディが、ある日いくら笛を吹いてもヤギが一頭も戻ってこないので探しに行ったら、緑の木の葉と赤い実を食べて走り回り鳴きたてていた。まるで魔法にかかったように興奮していた。この赤い実こそコーヒーの実だった。私も好きなコーヒーだが夜6時以降は絶対に飲まないようにしている。夜飲むと必ずと言っていいほど興奮して眠れなくなってしまうからだ。

コーヒーはアカネ科コヒア属の常緑樹で、コーヒーの花は白い可憐な花が葉の付け根にかたまって咲き、数日で散ってしまう。私は2004年に開催された浜名湖花博でコーヒーの花の実物を初めて見た。花が散ると、はじめ緑色の固い実を付け、徐々に黄色に変わり、最後にサクランボのように真っ赤に熟していく。開花から果実の成熟まで9〜10か月を要する。コーヒーの主要産地は赤道を挟んで南北それぞれ25度の間、ここをコーヒーベルトという。一番コーヒーの栽培に適した気象条件だからだ。エチオピア、ケニア、ジャマイカ、グアテマラ、コロンビアなどみんなこの中に入っている。コーヒーの銘柄は大きく分けて南米、カリブ海中米、アフリカ中東、アジアなど。その中でも南米のコロンビアとブラジルは全世界の50%を生産している。コーヒーの王様と言えば言わずと知れたブルーマウンテン、中米カリブ海に浮かぶジャマイカ島のブルーマウンテン山脈の山岳地帯で栽培される、香り、酸味、苦味ともまろやかな味わいは正にコーヒーの王様だ。生産量が少なく価格も飛びぬけて高いので、われわれ庶民は毎日飲むという訳にはいかない。

収穫されたコーヒー豆は水洗、乾燥、脱穀され精製される。精製されたコーヒーの生豆は、まだコーヒーの香りも味わいも全くない。焙煎により豆の中に眠る美味しさを目覚めさせるのだ。コーヒーの風味の違いは銘柄よりも焙煎度合のほうが深く関係する。焙煎度は大まかに、浅煎り、中煎り、深煎りの3段階がある。コーヒーの味を決定するのは苦味と酸味。普通浅煎りの段階で酸味が強く出て、深煎りになるに従って苦味が強くなる。コーヒー専門店は自家焙煎でその店ならではの特徴を出したりしている。またコーヒーの味わいを決める3つのポイントがある。焙煎、ブレンド、グラインドだ。適したブレンドの豆を、焼きたて(焙煎してすぐ)、挽きたて(直前に挽く)で入れるのが鉄則だといわれる。産地により酸味や苦みにかなり特徴がある。素人では知識がないとブレンドは難しい、生の豆を焙煎するのも不可能、できるのは焙煎された豆を挽くグラインドぐらいだ。

コーヒー豆を挽く道具は電動ミルと手で回すミルがあるが、電動は摩擦熱が起きて香り成分が逃げるので、できれば手動式でゆっくり挽きたい。と、ある「コーヒー通」向けの本に書いてあった。我が家にも昔使っていた手動式のミルがある。挽き方はコーヒーの抽出方法により粗挽き、中挽き、細挽きと適した挽き方があり、家庭でコーヒーメーカーで抽出するなら中挽きが適当である。コーヒーの抽出方法にも様々な方法がある。一般的にドリップ式といわれる、上からお湯をポタポタ落して布や紙で濾過する方法である。以前は私も手動で沸騰したやかんのお湯でポタポタ濾過していたが、今はセットしてスイッチを入れれば5分でコーヒーができる便利なコーヒーメーカーに任せて怠け癖がついてしまった。サイフォン式というのがある。蒸気圧の差によってお湯が吸引されるメカニズムを応用した方法で。フラスコのようなガラスの容器を下からアルコルールランプで温める方法で、まるで理科の実験のような方法だ。昔スタンド形式の小さな喫茶店でコーヒーを注文すると一人ずつサイフォン式で入れてくれた。見ていると面白かった。これも昔自宅でやっていた。

その他に西部開拓時代にアメリカで普及したといわれるパーコレーター方式はサイフォンの原理と同じ方法である。西部劇などでコーヒーを飲むシーンはみんなこの方法である。浅く煎った豆を粗挽きにしてパーコレーターで入れればカウボーイ気分になれる。イタリアでは蒸気圧で一気に抽出するエスプレッソ方式が主流である。深く煎った豆を極細挽きにして蒸気の圧力で一気に抽出したコーヒーは、独特の強い香気と酸味、苦味を持ち、小ぶりのカップで飲む。一杯を3口で飲むのが「通」である。「ダッチコーヒ−」と言われるのがある。水だしコーヒーのことで、細かく挽いたコーヒーに水を加え、長い時間をかけて滴下させたコーヒーのことである。「ダッチ」とはオランダ人のことだが、別にオランダでよく飲まれたのではなく、オランダ領時代のインドネシアで考案されたのでこの呼び名がある。点滴のように一定のリズムでまんべんなく水を落とし抽出するので、数人分抽出するのに6〜7時間かかる。コーヒー豆の特徴の良いも悪いも全て引き出すとされ、「甘さ」を引き出す唯一の方法といわれる。

暑い夏には欠かせないアイスコーヒーがある。普段ホットで飲んでいるコーヒーを冷やしても美味しいアイスコーヒーにならないことがある。美味しく、奇麗な色のアイスコーヒーを入れるには、2つのポイントがある。第一は、冷やして飲むのに適した深煎りのコーヒー豆を用いること。第二はクリームダウン現象(温度を徐々に下げていくと白く濁る現象)を防ぐために急冷させることである。アイスコーヒーは正確にはアイスドコーヒーだ。冷えたコーヒーではなく、冷やしたコーヒーのことである。若かりし頃、街の中央に「喫茶太陽」という老舗の喫茶店があってよく出入りしていた。夏にアイスコーヒーを注文すると、ホットコーヒーと、氷の入ったグラスが出てきた。お客に「自分で冷やしてください」ということだ。グラスの中にホットコーヒーを注ぐ時によくこぼれたりしてうまく注げなかった。考え方は良かったが、お客にやらせるのは少し無理があった。今では懐かしい思い出である。

旅行に行った時、気に入ったコーヒーカップを見つけるとよく買ってくる。ついつい陶器や器の店に足が向いてしまう。収集の趣味の余りない私の唯一つの収集趣味と言える。特に高級なカップを集めているわけではない。作家とか窯元には拘らず、せいぜい三千円前後で、見て気に入ったら買ってくる。すべて一客だけの単品である。毎日その日の気分でカップを変えて美味しいコーヒーを飲むと、シャキッ!と口の中が締まっていい気分である。ささやかながら豊かな気分に浸れる私の朝のひと時である。(2007・10・20)

「青春日和」トップ