アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.15

“悲願達成「佐鳴湖公園ミニ鉄道」を開設した男のロマン”

“蒸気機関車(SL)は電車やディーゼルカーと違って「命」が宿った存在。子どもたちに魅力を長く伝えていきたい!”・・・「浜松ミニSLラウンドハウス」会長兼事務局長:小倉慶久

2007年5月下旬、長年の悲願であった「佐鳴湖公園ミニ鉄道」を開設した中区富塚町にお住まいの小倉慶久(よしひさ)さん。今や時の人として雑誌や新聞の取材に追われてお忙しい小倉さんを8月の真夏の暑い日に「佐鳴湖公園ミニ鉄道」敷地内で快く取材に応じてくださった。また、8月19日の「SL乗車会」にも取材をさせていただき、その人気のほどをたっぷりこの目で見てきました。(地域情報ページ「佐鳴の輪」取材記より)

小倉さんは、子供のころ鉄道線路の近くにお住まいだったので、毎日、行き来する列車を見て育ちました。もちろん当時はまだSLが健在で、列車の入れ替え作業を時間を忘れて見入っていました。息子さんが8歳の時にNゲージ(鉄道模型)を買ってあげたのを機会に、もともと鉄道が好きだった小倉さん自身が鉄道模型にのめり込んでしまいました。作っては壊し、作っては壊し、いつの間にか鉄道模型も2,500車両を超える数になってしまいました。そんな小倉さんのご自宅の玄関先に、実物の鉄道の信号機が天を衝いて立っていてビックリする。

そんな趣味が縁で25年ほど前に同じ鉄道マニアの仲間と知り合い、ライブスチーム(蒸気機関車)の運転に立ち合うようになりました。地域の催事やボランティア活動で運転を重ねるうちに、自分も模型蒸気機関車を製作したくなり、はじめは中古のスーパー6型テンダー機関車やEB10型風電気機関車を購入改造したり、乗用台車を作っていました。今はC58−200型蒸気機関車に取組み、ほぼ完成に近づいているそうで、いずれC11 190型蒸気機関車を製作したいと、鉄道模型の夢は果てしなく終わりのない世界のようです。

地域の催事やイベントで機関車を展示したり子供たちを乗せたりしている内に、常設の鉄道公園を作る構想は25年前からずっと会員のみんなが持ち続けていた夢でした。その間、都田町や遠州浜方面など、何箇所か候補地の話があったり消えて紆余曲折がありました。佐鳴湖公園隣接地に浜松市が民間から借り受けている公園敷地が、利用されないままになっているとの情報を得ました。早速浜松市との熱心な交渉の末、整備費は一切自分たちが負担することを条件に借受できることになりました。知人の土建屋さんに土砂を入れてもらったり、草を取ったり、会員たちが休日を返上して敷地を整備し、線路を設置して、長年の悲願がかなって2007年5月末に遂にオープンしました。オープンして間もなく地元の新聞や鉄道模型の雑誌などの取材を受けるようになり、多くの市民の関心が集まりました。「今度はいつ乗車会をやるの?」との問い合わせがたくさん来るようになりました。

2007年8月19日(日曜日)、オープンして何回目かの「SL乗車会」を開催するというので会場を訪問しました。10時からの開催というので9時半ごろ会場に行くと、すでにスタッフがSLの釜に石炭を入れて蒸気を沸かしていました。蒸気の圧力が基準まで達する時間はその日の天気により毎日違うそうです。数組の子供連れの家族が集まっていました。10時になってSLの準備も整って、いよいよSLの乗車が始りました。先ほどより更に子供の数が増えてきました。聞くと遠く静岡市や三島市からも訪れているそうです。大人の鉄道マニアも岡崎や名古屋から駆け付けている人がいました。大人も子供も年齢に関係なく楽しめるのが鉄道趣味の良いところです。一般的にミニ鉄道の乗車会と言うと、単線をくるくる回るだけですが、ここの設備のすごいところは複雑な複線を中央コントロールセンターでポイント切り替えができることです。この設備にはさすがの鉄道マニアも感心していました。小倉さんの自慢の設備です。

小倉さんの奥さんも「SL乗車会」では駅員になって子供たちの乗車の世話で大忙しでした。ご主人の趣味のお手伝いですが、奥さんも今ではまんざらでもなさそうでした。時々敷地の草取りもすすんで手伝ってくれるそうです。やはり夢の実現の陰には家族の協力があったのです。できれば毎月定期的に乗車会を開催したのですが、今のところ地盤が不安定で列車が脱線すると危険なので、予定日が決められないのが悩みだそうです。素人には分からない悩みがあるようです。

お昼近くになっても大勢の家族連れが何回も何回もSLに乗って楽しんでいました。SLもいろいろな種類の機関車が走っていました。電動の新幹線も走っていました。出来立てのSLの試乗もしていました。SLに乗っている子供を撮ろうとカメラを持って追いかけているお母さん、お父さん、おじいちゃん、みんな楽しそうでした。小倉さんはテキパキとスタッフの指示や子供が怪我をしないか大忙しで駆け回っていました。やがて正午のお昼休みとなり、取材を終わって会場を後にしました。午後はまた1時から3時まで乗車会は続きます。小倉さんを見ていると夢を実現した男のロマンを感じます。いいお顔をしていました。(2007・8・25)

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