アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.8

“ただ今、「林住期」の真っ最中”

私は4月10日で満65歳を迎え、一般的に言われるところの高齢者と呼ばれる年代になりました。古代インドに、人生を4っつの時期に区切ってそれぞれの生き方を示唆する「四住期」という思想があるそうです。心身を鍛え、学習し、経験を積む25歳までの「学生期(がくしょうき)」。就職し、結婚し、家庭を作り子どもを育てる25歳から50歳までの、いわゆる社会人の時期である「家住期(かじゅうき)」。そして孫が生まれる頃になったら全ての財産を捨てて森林に住み、自然と向き合って自分自身の人生を静かに見つめ直す50歳から75歳までの「林住期(りんじゅき)」。人間として円熟し余裕が出来て、遊びを真に楽しむことが出来る旅の時期である75歳からの「遊行期(ゆぎょうき)の四つの時期です。

季節の移り変わりは春・夏・秋・冬、方角は東・西・南・北、ものごとの進むステップを起・承・転・結と言います。自然界では四分法はごく自然の法則に合っています。昭和20年頃の日本人の平均寿命は49.8歳でしたが、平成17年には、男性78.53歳、女性85.49歳と、何と30年以上も長生きになりました。100歳以上の高齢者が全国で3万人近くもいるそうです。正に「人生100歳」の時代になりました。作家の五木寛之氏は、定年後の人生を「人生のオマケ」などと言う考えは捨てるべきだ、四住期の中の「林住期」こそ人生の中で一番輝いて生きるべきだと言っています。

現代人のサラリーマンの場合は一般的には定年が60歳だから、実際には林住期は60歳からともいえるが、現実には50歳までにその人の会社人生は決まってしまうと言って良いだろう。50歳を過ぎた頃から、ポストも窓際的となり、関連会社への出向があったとしても、所詮期限付きの窓際族である。やはり50歳を過ぎたら心の準備は必要だと思う。林住期こそ充実した輝いた人生を送る為には、50歳を過ぎた頃から新たに人生設計を立て直すべきである。そういう点では、元銀行員で音楽家の小椋佳氏などは49歳でキッパリと銀行を退職し、音楽家としての素晴しい林住期を再スタートさせた最も理想的な羨ましい存在です。非凡な小椋佳氏だからこそ出来たことで、私がそんなマネが出来る訳はないが、遅ればせながら私も自分なりの定年後の人生設計を立てて歩み始めたところです。

私も定年を過ぎてから、定年後の人生について感じていることがあります。現役時代の栄光や挫折、出世や失敗などは、定年を迎えてしまえば全て過去のことで、みんな同じ「タダの人」になってしまうということです。自分がいつか息を引き取る時に、「ああ!いい人生だったなあ!」と言えるのは、現役時代のそうした栄光や名誉や出世では決してないと思います。きっと定年後の人生が如何に豊かで充実した幸せな日々が送れたかではないでしょうか。「終りよければ全て良し」と言う言葉もあります。定年後に不幸な人生を送っては何の意味もありません。定年になる頃は殆んど子育ても終って、時間もお金も自分だけの為に使えるようになります。自分の好きなこと、今までやりたくても出来なかったことをやれば良いのです。誰にも気兼ねや遠慮などはいりません。今までの仕事とはつながりのない人々と活動し、ボランティアでも趣味のサークルでも自治会活動でも良いのです。重要なのは会社の価値観とは関係のない人たちと共に活動することで、自分にとって永続的な価値を見出すことです。

仕事が趣味で、好きで今の仕事をやっていると言うのなら、そんな幸せなことはありません。しかし、そんな人は稀で、おおかたの人は生活の為にそれまでの会社に定年まで勤めたであろうし、或いは仕方なしに家業を継いだりした方も多いのではないでしょうか。そして子どもを無事育てて、その子どもが独立して、やがて孫が出来る頃になれば、社会人としての責任は十分果たしたと自信を持って言えるのではないでしょうか。家住期に於いて、社会人として十分責任を果たし終えた人間は、他人や組織の為ではなく、ましてや生活の為ではなく、正に自己本来の人生に向かうべきです。自分の為に残された時間を過ごす。それが「林住期」なのです。間違っても「濡れ落ち葉」などと言われるような生き方はごめんです。林住期を現代風に解釈するなら、なにも財産を捨てて森の中に引きこもる必要はありません。生活の為ではなく生きる時期、生きる目的を変える時、人生の一番輝ける時期だと決意することから新しい日々が始まります。これまで貯えた体力、気力、経験、能力、センスなどの豊かな財産を全て土台にしてジャンプする時期なのです。

もう一つ大切なことがあります。お互いに連れ合いの人生の邪魔をしない事です。自分も自由に生きる分、相手の自由も尊重することです。お互いの行動に干渉しない事です。所詮夫婦はかつては赤の他人だったいうことを思い出すことです。「親しき仲にも礼儀あり」と言う言葉があります。お互いに何かをしてもらった時は、素直に「ありがとう」と声に出すことです。このことに早く気付いた夫婦は熟年離婚とは無縁です。林住期には家事一切は平等に分担すべきです。しかし私には一つだけダメなことがあります。料理がほとんど出来ません。食事の支度が自分で出来ないと連れ合いから完全には独立できません。最近はスーパーに行けば独り暮らしを応援する食材が沢山あります。しかしこれに頼っていては胸を張って輝いているとは言えません。公民館主催の「男の料理教室」が好評だそうです。やはり考えることはみんな同じなのでしょう。この課題を克服した時が私にとって本当に充実した輝ける「林住期」になるような気がします。(2007・4・20)

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