アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.7

“春を告げるスミレの花”

スミレの花

毎年3月も半ばを過ぎる頃から、いつもの散歩道や畑の畦道、野原では野の花が一斉に咲き始める。雑草と言われる野の花が大好きな私にとっては胸がときめく季節の到来である。桜の花もいいけれど、自分からはその美しさを誇示することのない雑草の花の、そんな優しさにどういう訳か心が惹かれてしまう。もっとも春は30数年来悩まされ続けている花粉症の季節でもあるが、加齢と共にからだが鈍感になってきたせいか、若い頃に比べて症状が軽くなってきたのはありがたい。

運動を兼ねてデジカメをポケットに入れて野の花散策に出かけるのが私の楽しい日課の一つであり健康法である。愛犬が今年の2月8日に癌でなくなってからは独りで散歩に出かけている。家の近くの道路わきのコンクリートの割れ目に薄紫のスミレの花が今年もたくさん咲いていた。春の野の花の中では、スミレは私の一番好きな花である。その可憐な花に出会うと、つい顔を近づけて見つめてしまう。

雑草は自分の住処(すみか)を自分では選べない。風に吹かれて、ハチや蝶やアリに運ばれてたどり着いたところが一生の住処となり、芽を出して花を咲かせるのである。自分で歩いて移動できない雑草にとっては、好むと好まざるとにかかわらず、たとえコンクリートの割れ目でも、そこを一生の住処として頑張るしかないのである。こんなコンクリートの割れ目に果たして水分や養分があるのだろうかと心配になってくる。しかし、こんなに青々とした葉っぱと、見事な花を咲かせているのである。時々我が家の周りの石垣の割れ目に生える雑草を取り除く時も、スミレの株だけは残してあげる。今年も小さな濃い紫色の花が咲いた。

スミレの種は成熟するとパチンとはじけて2〜3メートル四方にも飛び散る。スミレの種には「エライオソーム」という、アリの好物のゼリー状の物質が付いていて、アリが巣に運んでエライオソームを食べ終わった後の種は、アリにとってはゴミなので巣の外に捨てられる。こうしたアリの行動によってスミレの種は見事に散布されるのである。アリの巣はコンクリートの割れ目などが結構多いので、こんなところにもスミレがたくさん生育してる。アリの巣はアリがエサをたくさん運んでくるので結構栄養分が豊富で水分もあるのである。

こんな可憐で美しいスミレの花も、近年だんだん少なくなっていると言われる。その一つの原因は除草方法の変化にあると言われる。昔は除草と言えば刈り取りでした。刈り取りは植物の根っこの部分を残すので、小型のスミレのような多年草にとっては生き残ることが容易です。しかし、近年は地下部まで枯らしてしまう強力な除草剤を使ってしまうので雑草を一網打尽に除草してしまうのです。田舎ほどこの傾向が強く、むしろ除草剤を余り使わない都会のほうがスミレがたくさん咲いているという皮肉な結果になっているようです。畑や野原の野の花が咲き乱れている田舎の原風景がだんだん少なくなっていくのは、なんとも寂しい気がします。そう言えば、最近はレンゲ畑が殆んど見られなくなってしまいました。(2007・4・7)

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