アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.2

“我が家の庭の主”

ヒキガエル

時々庭の改造をしたりして、庭土を掘り返したり、庭石を動かしたりするたびに、茶色の大きなヒキガエルがビックリして姿を現す。別名ガマガエル,イボガエルとも言う。体中にイボがある。耳の後ろの耳腺から強力な毒液を出し、背中のイボからも牛乳のような有毒の液を出して外敵から身を守るそうだが、今までそんな攻撃を受けたことはない。多分私がこの家のご主人様で、何もいじめないことを知っているのだろう。家を新築して庭を造った時以来だから、もう20年以上も棲み続けている、“我が家の庭の主”である。ヒキガエルの寿命は10年ぐらいというから我が家のヒキガエルは2代目か3代目ぐらいだろうか?。ヒキガエルの鳴き声は聞いたことがないが余り鳴かないようだ。跳んだり跳ねたりもせず、極めておとなしい種類のカエルである。繁殖期以外は水に入らず、森林や畑、人家の庭に棲むという。

かつては青々と美しかった我が家の芝生の庭が、20年も経ったら管理不十分で雑草の庭に変わり果ててしまった。さてどうしたものかと思案に暮れていたが、いっそこの機会に畑を少し広げようと昨年11月ごろから改造に着手した。鈴なりになるのを夢見て10年前に浜北緑化木センターで苗を買って植えたグレープフルーツの木が随分大きくなって、毎年白い花は多少咲くのだがこれまで一度も実が成ったことがない。ほんとうは名前のごとくぶどうの房のように見事に実る筈だった。桃栗3年、柿は8年だが、グレープフルーツは何年待てばいいのだろうか。同じみかんの仲間だと簡単に思っていたが、やはりカリフォルニアでないと実がならないのだろうか。さすがに気の長い私も待ちくたびれて、可哀想だがグレープフルーツの木を切ることにした。株の根元に繁っていたシャガの株をどけたら、木の根っこにあのヒキガエルが眠っていたのだ。「どこに隠れていたと思ったら、こんなところにいたのか」、久し振りのご対面である。時期的に冬眠していたのを無理やり起こしてしまったようで申し訳ない事をしてしまった。葉っぱの上で記念撮影をして、すぐにまた冬眠に戻ってもらった。

グレープフルーツの木を切って畑を広げると随分畑が広くなる。野菜くらいは自給自足にしようと年金生活者のささやかな抵抗である。畑を広くしたら何を植えようか。ナスにキュウリにピーマン、ブロッコリー、今年はジャガイモにも挑戦してみようか。などとなにやら夢ばかりが膨らんでくる。最近は定年退職者が近くの畑を借りて家庭菜園に汗を流す人が多い。近所にもそんな畑があって、2〜3坪ほどの畑にナスやキュウリやエンドウ、ダイコンなどを作って楽しんでいる。この間も近所の方に「今年は気候が暖かすぎて大きくなりすぎちゃって」と、大きなダイコンを3つもいただいた。ダイコンは冬の温かい料理には欠かせない野菜なので大助かりである。家庭菜園でも結構2人家族では食べ切れないほどの野菜が出来たりする。しかし、自宅から離れたところの畑は管理が大変だと思う。草取り、水遣りなど、いわゆる「マメな人」でないと続かない。私は都会育ち?の、どちらかと言うとインドア派なので、お百姓仕事は正直言って余り得意ではない。私はせいぜい自宅の庭の畑で頑張りたい。

近頃地元の農家の無人販売で、野菜が何でも5〜6個も入って100円で売っている。素人が高価な苗を買って青虫に食われながら作るより、プロが作った無人販売の野菜を買ったほうが出来も良いし値段も安い。最近は農家も高齢化して農業の後継者もいないので市場に出すほどの作物も作れず、細々と小遣い程度に農作物を作っては無人販売を行っている。「素人が野菜作りをしても勘定に合わないよ」、と言ってしまったら夢も希望もありません。虫食いだらけの葉っぱやトマトを朝とって直ぐにサラダにして食べる、この新鮮さが家庭菜園の一番の魅力なのです。

家庭菜園の良いところは農薬をほとんど使わないので健康に良いところだ。農薬を使わないので特に葉っぱものは虫食いだらけになる。自分で野菜を栽培してみると、ほんとの無農薬栽培では売り物の野菜は出来ないことがよく分かる。野菜作りで大切なことは、先ず土作りである。水はけ、水持ちの良い肥えた土が不可欠である。堆肥などの有機物を常に入れて石灰でPH調整をしないといけない。よく連作はいけないという。トマトやナスなど、同じ場所で連続して栽培すると、前に作った野菜に寄生していた病害虫が土の中に残り、次に植えた同じ種類の野菜が被害を受ける。或いは土中の肥料成分が極端に不均衡になっているなど、いろいろ悪い条件が重なって野菜の生育に影響するという。そうは言っても狭い家庭菜園では連作を避けるのは難しい。定番のトマトやキュウリやナスは毎年栽培したい。だから毎年土を改良しないといけない。

我々素人の家庭菜園は余り専門的な難しいことは言わずに楽しめばよいと思う。虫食いだらけの小松菜、曲がったキュウリ、でこぼこのトマト、一番良いところを青虫や小鳥に食べられて悔しい思いをして、それでも無農薬で新鮮な野菜が食べられる、ささやかな庶民の食卓の楽しみである。そんな無農薬の畑だからミミズもたくさんいて、我が家の庭の主のヒキガエルもご馳走に困らずに長生きできるのである。さて、畑の拡張工事が春の苗を植えるころまでに完成するのかどうかが問題である。畑を広げてもまだ相変わらず広く残っている雑草の庭をどうしようかまだ結論が出ていない。庭の改造はこれからもまだまだ続く。「ヒキガエル君!また何時か会おうね」(2007・2・3)

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