アンドレのフォト・エッセイ「青春日和」No.1

“「2007年問題」の幕明け”

サキソフォンの練習に励む熟年男性

2007年から2010年にかけ、大量のベテラン社員が労働市場から姿を消す。最近盛んにマスコミ紙上で載せられている「2007年問題」である。1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)までの戦後の第一次ベビーブームで生まれた、全国で約683万人の年齢層の人たちを、作家の堺屋太一は他の年齢層に比べて2割から5割も多いことから自分の小説の中で「団塊の世代」と呼んだ。日本の高度成長期やバブル時代を通じて、日本の戦後経済の中心勢力として頑張ってきた人たちである。団塊の世代の人たちが2007年から大量に停年退職を迎えるに当たり、この勢力が日本の高齢化社会の姿をどう変えていくのか、日本中、期待と不安を抱きながら注目して、「2007年問題」などといって様々な意見や問題を提起しているのは皆様よくご存知の通りである。

団塊の世代の人たちは日本的終身雇用の中,ひたすら生涯一企業の中で高度な技術や知識の中心的な役割を担ってきた。バブル崩壊後の日本の企業は終身雇用は完全に崩れ、何十年も掛けて育てた人材をリストラの名の下に捨ててしまった。若い有能な社員は他社に引き抜かれたり自分から転職し、新入社員は自分に合わない職場はさっさと辞めてしまう。愛社精神など育つ環境ではない。職場の伝統的な技術の継承などが難しい時代になった。団塊の世代の大量退職で企業の技術の穴がポッカリ開いてしまう懸念を指摘する専門家も多い。欧米と違って「人に仕事がついてくる」属人的な働き方が当たり前の日本では、その人が退職してしまうと、それまでのノウハウや人脈が途絶えてしまう。永年の知識や技術の蓄積は企業にとっては大切な資産なのである。

これら700万人近い労働者が一定期間に大量に退職していくと、少子化やニートの増加と相まって、近い将来深刻な労働力不足も懸念される。バブル崩壊後、日本の企業は一様に人件費削減に走った。人件費の高い中高年のリストラ、新卒新入社員の採用を控え、労働力不足をパートや契約社員で賄っている。人件費は大幅に削減できたが、会社の将来をしっかり支えていく優秀な中堅社員が果たして育っているのでしょうか。ちょうど団塊ジュニアの年代の若者達が大学や高校は出たけれど就職先がない「就職氷河期」が暫く続いた。昨年あたりからやっと就職に明かりが見えてきたが、しかし、採用を控えた年代層の社員の穴がポッカリ空いている。

高齢化社会に伴って年金制度も段階的に年齢を引き上げるなど、次第に条件が悪くなる一方である。企業も賃金など雇用条件変更を条件に、再雇用制度を設けたりして、60歳からの再雇用を受け入れる企業が多くなった。アンケートによると60歳で定年後、今の仕事をきっぱり止めるという人は2割程度、その中で別の仕事や自営業、就業しないで趣味やボランティア活動をしたいという人が半々である。しかし団塊世代の多くは労働意欲は高いと言われている。まだまだみんな元気で働きたいのである。8割ぐらいの人は「これまでの仕事とは別の活動をしたい」「生きがいを見つけたい」と就業を希望しているという。しかし、具体的に何をするか、となると、大部分の人が決まっていないのが現実のようである。

団塊の世代の大量定年退職を絶好の機会と捕らえて、各自治体では誘致運動に懸命である。団塊の世代の多くは地方から大都市に移住している。こうした世代のUターン、Iターンを狙って地方に戻ってもらおうという訳である。経済効果、税収効果を狙っている。浜松市でも2007年度から農業、林業、民族芸能、などの地域資源を掘り起こし、大都市圏を中心にPRし、浜松市への移住を進める、としている。また、新たに農業を始める際に必要な土地の面積を30アールから10アールに緩和、団塊世代向けの農業技術指導も充実させ、新規参入を促す、という。果たして団塊の世代の人たちは自治体の目論みどおりに行動してくれるのだろうか。農業支援も、「農業で自立する意欲と能力を有する者」及び「5年後を見据えた農業計画書を提出しクリアした者」、という厳しい基準がある。家庭菜園程度ならともかく、ズブの素人が事業として農業を始めるのは、そんなに簡単なことではないと思うのだが。

直接戦争体験もなく、自由に生きてきたビートルズ世代の彼らが定年を迎え、お金と時間を得て新しいシニアスタイルを開いてくれのでは、という期待感がある。一方、団塊の世代に対するイメージだけが先行しているに過ぎない。大部分の人は定年を迎えたからといって60歳からそんなに新しい生活スタイルを切り開けるとは思えない。もしいるとしたら、そんな人は定年前に、とっくに新しい生活を始めている。数が多い意外に団塊の世代だからという特別の期待感には否定的な人もいる。

定年後の生き方で一つ言える事は、大部分の人は子どもも大学を卒業して社会人になっているので養育費は掛からない、住宅ローンも退職金で支払済みの筈である。職場の付き合いの飲食や高価な服も必要ない。後はお金も時間も自分の好きなことだけに使える、という気楽さがある。そうは言っても、この時代の人たちは仕事一筋で、「本当は自分は何をしたいのか」が分からなかったり、あなたの趣味は?と聞いても「さあ?」と返事に困る人が多い。少なくとも40代の内から仕事以外の「自分探し」を心掛けておくべきだったと後悔している人も多かろう。

“後悔先に立たず”だが、“思い立ったが吉日”の諺もある。何事も人生前向きに考えることである。私の経験から一つ言える事は、どんな事でも“自分が興味の持てるもの”をやることである。“やっていて楽しく好きになれるもの”であることだ。何をやるにしても好きでないと身につかないし、長続きしない。「好きで楽しい」ことと「継続すること」、この2つは絶対条件である。生活費を稼ごう、などと決して思ってはいけない。結果的にお小遣いがもらえた、ぐらいが丁度いい。技術を身に付けるようなものは、それを毎日のように習慣にしてしまうことである。そして、会社以外の友達をたくさん作ることである。趣味の仲間、同じ定年退職者同士の仲間、そして地域住民との交流など、様々な分野の人と積極的にコミュニケーションを図ることである。今では全国どこの地域でも「シニアネット活動」が盛んである。これらの仲間に入って活動するのも人脈や視野が広がって定年後の人生を豊かにしてくれる。

あなたが永年仕事で培った技能や知識を必要としている中小企業も結構あるものです。得意な趣味の技術や知識もボランティアや生きがい作りで活かすチャンスは沢山あります。いずれもいろいろな人との交流があると活動のチャンスが多くなります。やはり最後は人脈作り、コミュニケーションづ作りが鍵です。そして自分から積極的に行動することです。2007年問題は私の今年の最大関心事です。2007年はいったいどんな年になるのか注目して行こうと思います。(写真は,いつも佐鳴湖公園の同じ場所でサキソフォンの練習に励む熟年男性)(2007・1・20)

「青春日和」トップ