アンドレのフォト・エッセイ「令和つれづれ草」No.118

「ツユクサ」

ツユクサ

ツユクサは初夏から秋まで、どこでにでも咲いている雑草の花だ。いや雑草の花と言ってはいけない、野の花だ。春のスミレとともに私の大好きな野の花の代表である。半日陰の樹木の下で朝露に濡れながら咲く鮮やかな青のツユクサの花の群生を見つけると、つい近づいて見入ってしまう。

朝咲いた花が昼にはしぼむ朝露のようなはかなさから「露草」と名付けられたといわれる。昔は花弁の青い色で着物を染めたことから「着き草」とも呼ばれていた。半日しか咲かないはかない姿に、万葉集には恋の歌が9首も詠まれ、古くから日本人に親しまれている花である。その中の一つを紹介しよう。

♪つき草の移ろいやすく思えかも我が思ふ人の言(こと)も告げ来む♪(大伴坂上大嬢)

朝露に濡れてしっとり咲き、半日でしぼんでしまうその姿は人の哀れを誘う。ところがツユクサの葉の先端には余分な水分を体外に排出する水孔と呼ばれる穴を持っている。夜の間にこの穴から排出された水滴が露のように見えるのだ。はかなさを自作自演する、まるでウソ泣きのようなものだ。しかも、一つの花は半日しか咲かないが、苞(ほう)と呼ばれる葉の中からその日限りの花を次々に咲かせ、夏の期間中咲き続ける。決してはかない命ではないのだ。

ツユクサの花の青色と雄しべの黄色のコントラストはサッカー日本代表のユニホームを連想させる。ツユクサの花は蜜がないのでハナアブは花粉を食べにやってくる。6本ある雄しべのうち中央の鮮やかな3本の黄色の雄しべはハナアブを引き付けるための見せかけで花粉の量も少なく生殖能力がない。中央の1本がハナアブが黄色の雄しべを狙った時に体に花粉を付ける。次に下の2本の長く突き出た地味な色の雄しべがハナアブの背後からしっかり花粉を付着させる。サッカー選手のような見事な連携プレーをするのだ。

朝咲いて昼には閉じてしまうので当然ハナアブが訪れないこともある。そんな時は花を閉じるときに雄しべも内側に曲がって雌しべに花粉を付けて自家受粉を行う。虫が来なくても種子を残すためにあっさりオウンゴールを決めてしまうのだ。

雑草と呼ばれる野の花も、よく見ると美しく、それぞれみごとな生き方をしていて面白い。(2023.10.15)

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