アンドレのフォト・エッセイ「令和つれづれ草」No.117

「ヒガンバナ」

ヒガンバナ

今年の夏の暑さは異常だった。「この夏を無事生き延びられるだろうか」と、マジに思ってしまうほどだった。 こんな異常な暑さが彼岸まで続いたというのに、ヒガンバナは正確に彼岸に合わせて花を咲かせた。年によって多少のズレはあってもほぼ毎年間違いなく彼岸に咲くその季節感の正確さに感心する。しかも、予期しないところから突然花芽だけが伸びて赤い花が咲いたりしてびっくりする。

植物が季節の変化を知る方法は日照時間と気温だ。日照時間が一定の時間より短くなることで花芽ができるのを「短日植物」と言い、夏至から冬至の期間に咲くアサガオ、キク、コスモスなど。一方、一定の時間より長くなると花芽ができるのは「長日植物」と言い、冬至から夏至の間に咲くカーネーションやアヤメ、ダイコンなどだ。ただし日照時間は天候によって左右されるので、植物は夜の長さを感知しているのだという。電照菊はこの原理を応用して年中花を咲かせることができる。

気温の変化が要因の植物は、花芽形成のために一定の低温期間が必要となる。花芽が冬の低温刺激で成熟し、春になって気温が上昇すると開花する。その代表がサクラだ。冬の気温によってサクラの開花時期が毎年大きく変わるのはこのためだ。

ヒガンバナも温度を感知して花を制御している。ヒガンバナは通常9月の彼岸前後に開花し、開花後に葉を地上に展開して翌年の5月の終わりころに葉が枯死して夏を越す。一方4月下旬ころの葉の生育中に球根内で花芽の分化が始まっている。ヒガンバナは種子を作らず土の中で球根を作って株分けして繁殖するので、同じ遺伝子を持ったクローン植物だ。だから同じ地域の個体が一斉に花が咲き、どれも同じ大きさや形をしている。

ここからは私の素人判断だが、ヒガンバナは土の中で花芽を作るので、地上の暑さには余り影響されないのだろうか、土の中は案外一定の温度が保たれている。これから毎年こんな猛暑の夏になったら、地下室を作って住むのも生き延びる方法かな、と考えてしまった。もっとも地下3階くらいでないと効果がないかも。(2023.10.1)

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