アンドレのフォト・エッセイ「令和つれづれ草」No.77

「スミレの花」

スミレの花

スミレの花は私の大好きな春の野の花の代表だ。山道や土手など、やや明るいところに生えているが、石垣の隙間やコンクリートの割れ目などでも見ることができる。植物は自分の足で移動できないので、風に運ばれた種がコンクリートの割れ目に落ちたら、そこが自分の生きる場所になる。そこでひと花咲かせるしかないのだ。

しかし、コンクリートの割れ目にも土があって、土があるところはアリが巣作りに利用する。アリが他の植物の種と一緒にスミレの種も運ぶ。スミレの種には「エライオソーム」というジェリー状のアリの好物がついているのだ。エライオソームを食べ終わると種が残る。アリのゴミ捨て場所には、他の植物の食べかすなども捨てられているので、コンクリートの割れ目も意外に水分も栄養も豊富なのだ。そこで種から芽が出て立派に花を咲かせることができるのだ。

スミレの名前は、花の形が大工道具の墨入れの形に似ているので、「スミイレ⇒スミレ」になったという。スミレの花をよく見ると、後ろが突き出ている。この部分を「距(きょ)」と呼ぶ。距は蜜の入れ物になっていて、さまざまな虫がやってくる。花粉を運んでくれる虫もいるが、蜜だけ盗んでいく虫もいる。スミレの花粉を運んでくれる虫は舌を長く伸ばすことができるハナバチの仲間だ。だからスミレの花は筒状に長いのだ。

しかし、春が過ぎるとハナバチも訪れなくなる。その頃になるとスミレは花を咲かせなくなる。別にふて腐っているわけではなく、つぼみの中で雄しべが雌しべに直接ついて受粉する。開くことなく種を付けるこの花は「閉鎖花」と呼ばれる。閉鎖花は初めから咲く気がないのだ。

ほんとは自分の花粉より他の花の花粉を付けたほうが遺伝子的にも良い子孫を残すことができる。しかし、それもハナバチが来てくれればの話しで、いくら理想を言っても種子を残せなくては意味がない。そこで次善の策として自分の花粉で受精するのだ。(2022.5.8)

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