アンドレのフォト・エッセイ「令和つれづれ草」No.54

「誰が付けたか“ヘクソカズラ”」

ヘクソカズラ

夏の佐鳴湖公園を歩くと、道端の垣根などにからまって小さな白い花に真ん中が赤い可愛い花がたくさん咲いている。アカネ科のつる性多年草のこの花の名前は「へクソカズラ」、漢字で書くと「屁糞葛」である。誰がいつ付けたのか、余りにも可哀そうな名前である。確かに花の香は余りいい匂いではない。この匂いを嗅いでしまった名づけ親は、素直に名付けてしまったのか。むかし、自分の子どもに「悪魔」という名前を付けて出生届を出して、自治体から受理を拒否されたというニュースがあったが、いまなら植物学会から拒否されるかも知れない名前だ。しかし、古典の「万葉集」にも「糞かずら」と詠まれている由緒正しい名前なのだ。

白と赤の小さな花は「早乙女花」の別名もある。見た目はこちらのほうがピッタリだ。早乙女と称される清楚な美しい花が、こんな悪臭を身に付けたのには深刻な事情があったのだ。美しい乙女に悪い虫が付きやすいのは世の道理である。ヘクソカズラを困らせたのは、小さな花に押し入って甘い蜜を盗むアリである。そこでアリの侵入を防ぐため花に細かい毛を密集させる工夫をした、これは効果があった。

次に問題になったのが、茎や葉をむしばむ悪い虫たちたちである。次々と迫ってくる虫たちを追い払う方法こそ、悪臭を放す成分を蓄えることだった。香水で魅了する女性は多いが、ヘクソカズラが考えた方法はその逆だった。この悪臭で百年の恋もいっぺんに冷めさせ、悪い虫を寄せ付けないようにしたのである。

しかし、世の中には上には上の悪い奴がいるもので、これだけガードを固くした乙女を襲う悪い虫がいたのである。その名もヘクソカズラヒゲナガアブラムシという長ったらしい名前のアブラムシである。なんとこの悪臭成分を好んで自分の体内にため込んで外敵から身を守っていたのである。アブラムシの天敵のテントウムシも、このアブラムシだけは食べようとしなかった。ヘクソカズラの思惑は完全に裏目に出てしまったのであった。「鬼も十八、番茶も出花」という言葉もある。せめて花の最盛期の美しい早乙女の姿を愛でてあげて欲しいものだ。(2021.9.12)

「令和つれづれ草」トップ