アンドレのフォト・エッセイ「令和つれづれ草」No.9

「雑草という名の草はない」

ネジバナ

昭和天皇が皇居の庭の雑草を刈り取ってしまった侍従に「どうして草を刈ったのかね」と尋ねられた。侍従は褒められると思って「雑草が生い茂ってまいりましたので、一部お刈りしました」と答えた。すると天皇は「雑草という名の草はない。どんな植物にも名前がある。一方的な考えでこれを雑草と決めつけてはいけない、注意するように。」と論された。・・・これは有名な話です。

私も雑草の花に魅せられた一人です。雑草と言われる植物もよく見ると、どの花も美しいものです。私は春先に咲くスミレの花が一番好きですが、ちょうど今、佐鳴湖公園を散歩するとピンクのネジバナがたくさん咲いています。我が家の雑草だらけの芝生の庭にもいつの間にか種子が風に舞ってきて数輪咲いています。 ネジバナはその名の通りネジのように螺旋状に巻きながら咲いています。虫が訪れやすいように横向きに花を咲かせるので、一方だけに花をたくさん付けると傾いてしまう、だから満遍なく周囲に花を付けてバランスをとっているのです。ネジは右巻きと左巻きの両方があるようですが、佐鳴湖のネジバナはほとんどが右巻きだった。

ネジバナは芝生などに生える雑草ですが、ピンク色の花が可愛らしい。花は美しいはずで、小さな雑草ながらラン科の仲間です。ネジバナは種子の数がものすごく多く、一つの小さな花が数十万個の種子をつくります。このため一粒の種子のサイズはとてつもなく小さく、ほこりのように風に舞って散布されていくのです。ネジバナの種子は余りにも小さいので、発芽に必要な栄養分さえ持ち合わせていません。そこで、ラン菌というカビの仲間を呼び寄せ、種子に入り込んだその菌糸から栄養分を吸収して発芽するのです。ネジバナが他の雑草のように、たくさん群生して咲いているのを見たことがないのは、このように見かけの可愛らしさとは違った相当ネジ曲がった生態系だからかも知れません。雑草も調べてみると、いろいろおもしろくて興味が尽きません。(2020.6.30)

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